ボタンを押すとおにぎりが出てくる「魔法」のようなマシンが岐阜県のホテルに置いてあると、SNS上で話題を呼んでいる。マシンを手がけたのは、機械メーカーの不二精機(福岡市)。もともとはコンビニおにぎりの製造に対応する大型の機械を中心に手がけていたが、ニーズの変化とともに「小型化」に乗り出した過去があった。
「かわいい」「一家に一台欲しい」
曲線的なボディの機械から産み落とされた、三角形のおにぎり――。2022年10月15日、ツイッターユーザーの水越柚耶さん(@m_yu_ya)が投稿した写真が話題を集めた。機械には「おにぎりボタン」と名付けられたボタンがあり、押すとおにぎりが出てくる仕組みだ。投稿には7万近い「いいね」が付き、写真を見たユーザーからは「かわいい」「押したい」「一家に一台欲しいレベル」「これさえあれば毎朝楽になるのに」などの反応が聞かれた。
投稿者の水越さんは10月18日、J-CASTニュースの取材に、写真は15日に岐阜県高山市の「レジデンスホテル高山駅前」の宿泊者向け軽食コーナーで撮影したものだと説明する。
機械から落ちてきたおにぎりの中心には穴が開いている。ここに、利用者が自ら具材を入れて食べるという仕組みだ。水越さんが訪れた日には、海苔や鮭フレーク、昆布、あさり、ちりめんなどの具材が置いてあったという。また衛生対策として、消毒液と使い捨てビニール手袋が用意され、具材には蓋がされていたとした。マシンを2回使用したという水越さんは「ボタンを押すと一瞬でバン!と出てきたので驚きました。時間がかかるものと思っていたので...」と、当時の衝撃を振り返る。
同日、レジデンスホテル高山駅前の予約担当者にも話を聞いた。同ホテルは20年3月に開業したが、通常のホテルにあるような朝食会場が確保できず、朝食付きプランでは別のホテルの朝食会場を借りて対応せざるを得なかった。しかし、繁忙期には朝食会場が混雑するため、「自分たちのホテルでなんとか軽朝食を提供しないといけない」と、飲食提供スペース設置の検討を始めた。
限られたスペースの中で、どうやって朝食を提供するか――。目を付けたのが、不二精機の「おにぎり」の自動成形マシンだった。同社から機械を購入し、今年のGW明けから2階の「つきみ茶屋」に設置。朝食におにぎりが食べられる宿泊プランを開始した。宿泊サイトに掲載されたプランには「子供と一緒におにぎりマシーンでカスタム♪♪」と書かれたものもあり、すでに施設の「売り」の一つになっていることが伺える。
メーカー担当者も「バズり」に驚き
「びっくりしました。私たちはBtoB(企業向け取引)の会社ですので、(一般の)お客様からそういう声をいただくのは、すごく新鮮ですね。面白いな、と思います」
不二精機の営業担当者は10月19日、取材に対し、自社製品がSNSで注目を集めていることへの驚きを語る。SNSでの「バズり」は、想定外だったという。
製品の正式名称は「にぎってPONⅢ」。同社が約30年前から展開する小型おにぎりマシンの3代目になる。炊いたお米を中に入れると、100gの三角おにぎりを毎時1500個のペースで作ることが可能だ。
標準タイプには「ボタン」はなく、取り出し口のセンサーがおにぎりの有無を感知して、自動でおにぎりが作られる仕組みになっている。ただ、顧客の要望に応じて、今回のようなボタン式を製造することも可能だ。価格は1台100万円以上するという。
コンビニやスーパーなどで使われるおにぎりマシンのシェア8割を占める同社。1962年に饅頭・おはぎなどの和菓子を自動で成形する「包あん機」のメーカーとして設立された。70年には包あんの技術を生かし、日本初のおにぎり自動成形機を開発。70年代以降、出店を拡大していくコンビニの工場などで、大型のおにぎりマシンが重宝されるようになった。
しかし、時代の変化とともに新たなニーズも生まれる。中小店舗から「おにぎりを握るのが大変だ」などの声が聞かれるようになり、機器の小型化に乗り出した。今ではおにぎり専門店やうどん店、ホテルのバイキングなどで活用されている。担当者は「おにぎりであれば、ご当地の美味しい具材を自分で詰めて食べていただける。いい考えで採用いただいたのかなと思います」と、今回の採用例を喜ぶ。
「にぎってPON」シリーズはおおよそ10年おきに改良されている。担当者は「さらに大きな具材を詰め込めるような成形方法を実現し、保温性を高めた『にぎってPONⅣ』の開発を考えていきたい」と意気込む。また、「『こういった機能があればいいな』というツイッター上の投稿なども参考にしながら、開発に取り入れていきたいなと考えております」と、一般消費者の声にも耳を傾けたいとした。