登山中にツキノワグマに襲われ、素手で格闘する様子を撮った動画がユーチューブに投稿され、大きな反響を呼んでいる。
切り立った岩だらけの尾根伝いを下山していたときのことだ。
空手を習った経験や格闘技好きもあって、とっさに対応できた可能性
「あああ、あー!」。左頭上から黒いクマが突然、男性の方へ飛びかかって来た。
とっさに右手で払うと、クマは下に落ちて行く。ところが、また猛然と向かって来る。
男性は、クマの頭を殴るなどすると、クマはまた落ちた。しかし、すぐに登ってきたため、叫びながら今度は右足でクマの頭を蹴って落とした。さらに、クマが登ってこようとしたため、大声を出すと、クマは下に逃げた。
右側をよく見ると、子グマが出て来て、ソワソワしている。親グマは、また登って来たため、「うわー! うわー! うわー!」と男性はクマを脅した。
これで、クマは、下の方をウロウロした後、子グマと一緒に去って行った。
男性は、上に登って逃げ、「ハアハア」と荒い息遣いが聞こえるところで映像が終わっている。
これは、2022年10月6日にユーチューブのチャンネル「Bear attacks climber - 登山者と熊」で投稿された3分強の動画だ。クマに襲われ、格闘する場面は約20秒だった。
投稿者がこの男性だといい、動画の説明によると、埼玉県の秩父にある小鹿野町内の二子山のうち西岳の山頂付近で1日、下山中にクマが背後から襲って来た。その様子は、ヘルメットに着けたと見られる小型カメラに映っていた。
男性は、クマ避けの鈴は持っていたが、岩場ではうるさいのでミュートしていたという。子供のときに空手を習っており、格闘技が好きなのでとっさに殴ることができたのかもしれないとしている。
男性は、クマが下に降りて行ったため、西岳山頂に再び登り、一息ついてから元の道を戻って下山したという。岩をつかんだ手は傷だらけで、右手首は軽いねんざを負ったとした。今回のことについては、小鹿野町には通報したと報告した。
埼玉県小鹿野町「体長は1.2メートルぐらいとのことでした」
クマが襲って来たことについて、男性は、子グマを守るためだったのではないかとの見方を示した。「こちらが熊のテリトリーに侵入したことは申し訳ない」とも伝えていた。
男性は、ツイッター(@bear_vs_climber)でも報告しており、下山中にクマの一家も同じ方向に進んでいて追いつかれてしまったのではないかという。切り立った岩場で逃げられなかったため、クマと戦うしかなかったと説明した。この体験で、クマ避けの鈴を含め、自分の存在をアピールしながら登山することが大切だと実感したといい、多くの登山者に自分のケースを知ってほしいと考えて、動画を投稿したとしている。
動画は、380万回以上視聴される反響を集めており、「凄すぎます よくぞご無事で」「自分だったら、驚いて体が硬直してしまいそう」「足場が悪いので滑落しなくてよかった」といったコメントが書き込まれている。投稿者は、英語でも経緯を説明していることから、海外のメディアなどからも多数の問い合わせを受けている。
登山者からは、多くのリプライが寄せられており、アルピニストの野口健さんは10月18日、動画を見て、「岩登りの最中に上部から熊が襲ってくるとは...想定しづらく...」とツイッターで男性の状況を推し量った。とっさの対応について、「突然のことながら、パニックに陥らずナイスキック!!!いざという時にこれが出来ない人はいると思う。僕は冷静に蹴りを入れられるかな...自信ない」と感心していた。
通報を受けた小鹿野町の産業振興課は、サイト上の「クマの目撃情報について」のページで、今回の件について、地図で二子山山頂付近の目撃地点を示して注意を呼びかけている。
同課は18日、J-CASTニュースの取材に対し、動画を投稿した人と同じ男性ではないかとして、こう話した。
「目撃したと連絡があったのは、ツキノワグマです。電話でこの方から聞いたところでは、体長は1.2メートルぐらいとのことでした。子グマを連れていたとしたら、母グマではないかと思います。子グマを守ろうとしての行動でしょう。クマの目撃情報はけっこうありますが、襲われたというのは珍しいですね」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)