アフタヌーンティーを楽しむ「ヌン活」ブームを受け、多くの料理店が意趣を凝らしたメニューを提供している。紅茶や洋菓子といったイメージが強いが、ネットでは、本格的な中東料理で彩られた「アラビアンアフタヌーンティー」に注目が集まっている。
埼玉県飯能市に本社を置く貿易会社FAR EAST(ファーイースト)が、日本ではなじみの薄い中東料理を気軽に楽しんでほしいという思いから提供を開始した。ルミネ新宿店では2022年9月15日から平日限定で提供している。値段は一人3300円(税込み)。発売を告知するツイートには、5000件を超えるリツイート、8000件を超える「いいね」が寄せられ、多くの客が訪れているという。
いったいどのようなメニューを提供しているのか。J-CASTニュース編集部は22日、輸入食材店「FAR EAST BAZAAR(ファーイーストバザール)」ルミネ新宿店を取材した。
軽食は中東風ガレットとコロッケサンド
料理は2段重ねのアフタヌーンティープレートに盛り付けられている。一般的にスコーンやサンドイッチなどの軽食を載せる下段には、古代メソポタミア風のガレット「メルス」と中東風のロールサンド「シャワルマ」を採用した。
店長の池田淳明さんは、料理について次のように説明する。
「メルスには、メソポタミアをルーツとする昔ながらの古代麦で作った生地にフィグ(イチジク)を挟みました。どこか懐かしさを感じる素朴な小麦の味わいと、フィグの自然な甘さが好評です。初めて食べる筈なのに何処か懐かしい親しんだ味という感想も多いです。 社員の間でも食べだすと止まらなくなってしまう人気な料理です」
シャワルマは、レバノン風のコロッケ「ファラフェル」とひよこ豆のペースト「フムス」を、厚いパン生地「ピタパン」で巻いたもの。豆由来のクリーミーな甘みが感じられる。
上段のプレートには3種のスイーツが用意されている。最も人気のメニューは、地中海地域で親しまれるパイ「バクラヴァ」。パイ生地にナッツ類を挟み、焼き上げた後にシロップをかけたものだ。サクサクとしたパイ生地に染み込んだシロップが独特な食感を生み出す。
「本場の中東では、厳しい暑さを癒すため甘ったるくこってりとした味付けを行っていますが、当店では日本の方々に親しみやすいよう甘さを控えています。シロップの甘みは白砂糖でなく、花蜜糖で引き出しています。椰子から取れた花蜜は後を引かない自然な甘さを感じられます」
このほかにもナツメヤシの実「デーツ」を底面に敷き詰めたチーズケーキや、トルコ土産として人気の高い「ローズウォーター」を用いたゼリーなど、中東らしいスイーツが用意されている。
珍しい中東料理が「ツイステ」ファンらに大好評
池田店長によれば、発売告知が拡散されたことで初めて来店する客が増えている。来店時は珍しい中東料理を食べられるか心配そうにしていた人々からも、食後には「食べやすかった!」「甘さやスパイスがちょうど良かった」といった声が寄せられているという。
ツイッターでも「人生初バラクヴァが美味しくてもう一個食べたい!ってなりました」「初めて目にするものばかりで感動」「知識欲がめっちゃ満たされたしほんとうに美味しかった」といった声も寄せられている。
池田店長は、昨今のアフタヌーンティーブームが人気を後押ししていると推測する。珍しいアフタヌーンティーを求めて初めて来店する客も少ないという。
中東をモチーフとした作品やキャラクターをきっかけに訪れる人も多いそうだ。
「ツイートを拡散してくださった方々の中には、ツイステ(ツイステッドワンダーランド)というゲームをきっかけに興味をお持ちくださった方々が多くいらっしゃいました。
お店でもアクリルスタンドやぬいぐるみをお持ちのお客様が多いです。作中に『フムス』などの料理が登場するようで、ツイステファンの皆さんは料理の説明をたいへん熱心に聞いてくださります。質問をいただくことも多く、とても嬉しいです」
ツイステには「カリム・アルアジーム」と「ジャミル・バイパー」というアラブ風の名前のキャラクターが登場。SNSでは、彼らの会話をきっかけにフムスやシャワルマなどの料理に興味を持ったとする声もある。
ルミネ新宿店に先んじてアラビアンアフタヌーンティーの提供を行っていた系列店「CARVAAN(カールヴァーン)」にも多くのツイステファンが訪れるそうだ。キャラクターの誕生月にはバースデープレートの予約が相次いだという。カールヴァーンのレストランマネージャー・阿部香澄さんは、こう話す。
「アニメやゲームをきっかけに興味を持ってくださる方がいらっしゃるのは大変うれしく思います。
多くの方々はモチーフとなった世界観を体験することを大事にしていらっしゃるようで、その感想を自分の言葉でSNSなどに発信してくださり、ありがたく感じています」
ファーイーストはこうした大きな反響を受け、アラビアンアフタヌーンティーの提供店舗の拡大を検討しているという。平日のみ提供していたルミネ新宿店でも、土日祝日の開催を検討している。
「中東料理」をアフタヌーンティーで提供した理由
なぜファーイーストは中東料理を用いたアフタヌーンティーの提供を始めたのか。そもそも中東にアフタヌーンティーの文化はあるのだろうか。阿部さんは次のように説明する。
「『アフタヌーンティー』という文化はないと思いますが、交易で発展したアラブ地域ではお客様をもてなす文化が浸透しております。イスラーム教が浸透している影響で、お酒ではなくお茶を囲みながら旅の情報などを交換します。私たちが現地に足を運ぶ際にもとても温かく迎えてくださいます。
一つのポットを囲んで肌の色も宗教も異なる人々が旅の情報を交換し合うようなお茶の文化を、日本の方々にも親しみやすい形にしたものがアラビアンアフタヌーンティーです。中東料理に対して敷居の高さを感じてしまっている人々にも、お菓子やお茶から気軽に親しんでほしいという狙いもあります」
こうした経緯から長らくアフタヌーンティーの提供を構想していたが、2020年に新型コロナウイルス感染症が拡大。いったん計画は差し控えられるも、コロナ禍が落ち着き始めたタイミングで導入した。
「当時は外で飲酒を楽しむことが難しかったため、そういう点ではムスリムのようにお酒ではなくお茶で一息つきたいという人も増えていたと思います。長引く外出自粛でフラストレーションがたまってしまった人々にも、非日常を身近に安全にお楽しみいただけます。実際に来店された方々からは、現地から直接輸入した器なども好評で、旅行気分をお楽しみいただいたようです」
しかし日本で中東料理を提供するのは容易ではない。例えば、中東で日常的に食べられているナツメヤシの実「デーツ」の輸入も困難だった。
「デーツは甘くて栄養価が豊富なので害虫がつきやすく、船の荷物すべてをダメにすることがあるとまで言われるほど輸出が困難な商品でした。そのため砂漠の砂、虫、輸送中に傷みやすそうなものは全て取り除かなければなりません。
現地の規格よりも厳しい検品を行う必要があり、双方の文化や想い、考えを理解し合うための話し合いが難航することもありました。それでも日本にどうしても輸出したい旨を伝え、どうしてこの作業が必要なのか説得を続け、受け入れていただきました。そしてペストコントロール(害虫駆除)やパッケージ包装、脱酸素剤などを導入し、ようやく商品化が叶いました」
さらに阿部さんは中東について、日本ではまだあまり知られておらず、妖しげで魅惑的でありながら何処か近寄り難いなおとぎ話のようなイメージをもたれていると話す。そこで料理を提供する際には料理や食材に関する逸話や提供した背景などを紹介することを意識している。
「中東は古くから価値と価値が交換される交易で栄えてきました。貿易会社である弊社は、そんな中東の市場をイメージしながら多様な国々ではぐくまれてきた価値をお届けしたいと思います。物語を通して、お客様に現地の情景を目に浮かべてもらいながら異国情緒あふれる商品の魅力を感じてもらいたいです」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)
9/15(木)ルミネ新宿店限定
— FAR EAST BAZAAR (@FAR_EAST_BAZAAR) September 7, 2022
アラビアン・アフタヌーンティーが新登場!
アラブの国を旅すれば、
歓迎のお茶やスパイス香るコーヒー、
ナッツや果実を使ったスイーツが迎えてくれます。
エキゾチックな異国情緒漂う
特別なティータイムをどうぞお楽しみに pic.twitter.com/zzoPfSVHNV