「子供たちのお腹と心を満たしたい」――コロナ禍や物価高騰など厳しい状況が続く中、チーリン製菓(大阪府八尾市)は駄菓子の存続のために工夫を重ねている。
2022年8月末、1975年発売のロングセラー商品「パイポチョコ」が終売した。しかし店頭には現在もパイポチョコが並んでいる。ほとんど同じ外見の商品だが、名称は「ゴーゴーパイポチョコ」。パイポチョコとは消費税率も異なっている。
これも工夫の1つだというが、一体どういうことか。J-CASTニュース編集部は、チーリン製菓本社を取材した。
2種類の「パイポチョコ」が生まれたワケ
パイポチョコが誕生した経緯について、副社長の福井憲治さんは次のように説明する。
「パイポチョコ発売当時の昭和30年から40年にかけて、多くの子供たちが大人の持っているものに対するあこがれを持っていました。チーリンは、喫煙具のパイプやお酒のジョッキ、それからウィスキーのボトルなど『大人の持ち物や愛用品』をモチーフとした駄菓子を多種販売しています。なおかつデザイン的な要素だけでなく、プラスアルファで遊べる要素を取り込んでいるのが弊社の駄菓子の特徴です。しかしそれが災いする出来事がありました」
2019年10月、消費税が10パーセントに引き上げられた。この際、酒類を除く飲食料品に関しては8パーセントの軽減税率が導入されている。しかし一部の駄菓子には10パーセントの消費税が課されることになった。
駄菓子の入った容器がおもちゃとして再利用できると判断される場合などは、「一体資産」としてみなされ、軽減税率ではなく標準税率が適用されるからだ。この判断は事業者にゆだねられている。
経営企画室係長の小菅香織さんによれば、チーリン製菓では「パイポチョコ」など笛を吹くことができる駄菓子類、容器にペン先がついていて書くことができる「カラーペンチョコ」、容器がコンパスとして使うことができる「コンパスチョコ2」の税率を10パーセントに引き上げる判断をした。福井氏の話す「プラスアルファ」の部分が仇となった。
「弊社がすでに発売していた商品で一体資産(消費税10%)に当たると判断に至った商品は、小売店様への混乱や購入者様に多く負担してもらう事態になるため、何とかできないかということで、ゴーゴーパイポチョコをはじめ、軽減税率対応のゴーゴーシリーズを発売することになりました」
ゴーゴーシリーズはいずれも、容器の笛部分をシールでふさいだものだった。
なぜ2種類のパイポチョコを製造し続けたのか
軽減税率の導入から約3年、チーリン製菓はゴーゴーパイポチョコとパイポチョコの2種類の製造を続けた。福井氏は「正直に言えば、2種類を製造、販売するのは非常に大変でした」と振り返る。なぜ2つの商品を共存させたのか。
「消費税率が10パーセントに引き上げられた、旧来のパイポチョコも売りたいという声も寄せられていました。我々メーカーがすべての小売店の状況を把握するのは難しいですし、とにかくお客様に求められたものは供給を続けたいという思いがありました」
しかし2品を供給し続けるのは手間がかかるため、売り場が落ち着いたころには1つの商品に収束させていく必要があると考えていたという。そんな中、日本でも新型コロナウイルス感染症が拡大していく。
コロナ禍は駄菓子メーカーにどのような影響を与えたのか。福井氏によれば、20年3月ごろは「瞬間的に売れた」という。一斉休校によって外出の機会が減った子供たちが購入したためだ。しかしそれも長くは続かない。次第に小物は売れにくくなり、お徳用の大袋に入った商品が売れるようになった。
「さらに新型コロナウイルス感染症が拡大していくと、スーパーにはできるだけ少ない人数で、短時間で買い物をするよう呼びかけられました。売り場に子供が訪れなくなったことで、小物類の売り上げが下がっていきました。また運動会や遠足、夏祭りなどイベントごとでの需要も大きかったため、こちらも影響を受けました。
このようなコロナ禍であえて売りを減らすようなことはできず。パイポチョコのように、逆に手がかかることをしてでも、求める人のもとに供給し続けることを大事にしてきました」
終売、値上げの決意
チーリン製菓は22年2月、一部商品の値上げを発表した。その理由について小菅さんは次のように説明する。
「今年9月にカラーペンチョコ、ボトルサワー、カンパイラムネ、そしてゴーゴーパイポチョコを30円から40円に値上げさせていただきました。主な理由は、容器資材の値上がりによるものです。他の商品についても、容器だけでなくチョコレートを作る原料の値上げや円安による仕入れ価格の上昇があり、社内努力によるコストカットだけでは到底追いつかないところまで来ています」
全ての商品が厳しい状況にあったが、特に容器資材のコストを削ることが難しい4つの商品の値上げを決断。あわせて、社内の生産性の向上を目的にパイポチョコをゴーゴーパイポチョコに統合した。
パイポチョコシリーズの値上げは今回が初めてになる。福井氏は、「今回はもう限界だった」と漏らす。
「容器の厚みを減らしたり、機械を変えてランニングコストを下げたり、できることには取り組んできました。協力してくださる仕入先企業様も、何十年も同じ価格で製造し続けることには耐えられないとのことで、今後も子どもたちの喜ぶ駄菓子を安定供給するためにも値上げは避けられませんでした」
値上げの発表の直後には、ロシアがウクライナへの侵攻を開始。原材料はさらに高騰していく。小菅さんは、状況によっては今後ほかの商品も値上げする可能性があるとしている。
子供たちがわずかなお小遣いで購入できるよう、低価格帯を守ってきた駄菓子。やむを得ず値上げをすることになってしまったが、福井氏は価格以外の魅力を伝えていくと意気込む。
「昔は駄菓子屋さんが遊び方などを伝えてくださりましたが、現在の流通システムは値段の競争が激化しています。どちらが安いか、どちらの量が多いかという限られた側面で見られがちです。
世の中にはお腹を満たすお菓子はいくらでもありますが、それに加えて可愛らしさや面白さなど『心を満たす』という価値も感じていただきたいと考えております。幅広い世代から親しまれている駄菓子は、親子とのコミュニケーションツールにもなります」
コロナ前よりも売り上げは好調
製造をめぐる状況は厳しいが、福井氏によれば同社の駄菓子の売り上げはコロナ禍以前よりも好調だという。
「昭和レトロブームが後押しする形で、大人が懐かしさを、子供が新鮮さを感じる形で脚光を浴びています。また販売戦略にも力を入れました」
子供たちの心を満たすにはどうしたらよいのか、社員一丸となって様々な企画に取り組んでいる。例えば、占いができるチョコレート菓子「ぷちぷちうらない」では期間限定ですべての項目で◎が出る。コロナ禍で沈んだ気持ちの子どもたちに笑顔になってほしいという思いから発売し、話題になった。
同様に自粛する子供たちに向けて発売したギフトボックス「おうちで駄菓子屋さん」も好評だという。お菓子セットと組立式屋台型陳列台が入っており、家の中でも駄菓子屋さんごっこを楽しむことができる。こちらはチーリン製菓の通販サイトで販売されている。
「駄菓子のような低単価の商品を、配送費まで払って大量に購入する人は少ないです。しかしギフトボックスという形にしたことで、メーカーからお客様に直接販売させていただくことができました。
通販によって、お客様と直接コミュニケーションが取れるようになったことで、値段以外の価値をお伝えしやすくなりました。またお客様の喜びの声が直接寄せられるようになり、とてもありがたいです。
SNSでもこうしたお客様の声が可視化され、以前よりお客様との距離が近くなったと感じます。
こうした声によって、商品の遊び方について想定よりも理解していただけているものや、反対に全然知られていないものがあることを知りました。作り手の自己満足になってしまわないよう、積極的に情報発信をしていきたいです」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)