日本政府が「全ての拉致被害者の安全確保及び即時帰国」を掲げる中、北朝鮮で生存している可能性が指摘されている2人について、事実上「黙殺」する状態が続いている。
2人は、政府が北朝鮮からの拉致被害者として認定している神戸市の元ラーメン店員、田中実さん=失踪当時(28)=と、政府が「拉致の可能性が否定できない」としている金田龍光さん=同(26)=。2人が北朝鮮に入国したとの情報を日本政府が北朝鮮から伝えられていた、などと共同通信が2018年に報じていた。22年9月には、北朝鮮との交渉に携わってきた斎木昭隆・元外務事務次官も朝日新聞のインタビューに対して同様の発言をしている。ただ、政府答弁は「今後の対応に支障をきたすおそれがある」として「具体的内容や報道の一つ一つについてお答えすることは差し控えたい」。引き続き「ゼロ回答」を連発する状況が続いている。
元外務事務次官「報告書は受け取りませんでした」
朝日新聞が9月17日に配信した斎木氏のインタビューでは、2人の生存情報を北朝鮮から受け取ったとする報道について、
「北朝鮮からの調査報告の中に、そうした情報が入っていたというのは、その通りです。ただ、それ以外に新しい内容がなかったので報告書は受け取りませんでした」
と答えている。元政府高官が名前を出して、生存情報がもたらされたことを認めるのは異例だ。
10月13日の衆院安全保障・外務・拉致問題連合審査会では、立憲民主党の徳永久志衆院議員が斎木氏の発言について質問。林芳正外相は「この報道については承知している」とする一方で、
「田中さんや金田さんを含む北朝鮮による拉致被害者や拉致の可能性を排除できない方々については、平素から情報収集に努めているが、今後の対応に支障をきたすおそれがあることから、その具体的内容や報道の一つ一つについてお答えすることは差し控えたい」
などと従来と同様の答弁に終始した。
さらに、
「ストックホルム合意以降、北朝鮮の特別調査委員会による調査について、北朝鮮から調査結果の通報がなく報告書も提出されていない」
とも主張した。