SKE48にとって30枚目のシングルとなる「絶対インスピレーション」が2022年10月5日に発売された。グループからの卒業を間近に控えた最年長の須田亜香里さん(30)が参加する最後の楽曲だ。
センターポジションに抜てきされたのは、18年に9期生としてデビューした青海ひな乃さん(21)。前作の「選抜落ち」からの大逆転だ。ミュージックビデオ(MV)は「世代交代」をダンスで表現。SKE48の「世代交代」への思いを聞いた。(全2回の前編。後編はこちらから)(聞き手・構成:J-CASTニュース編集部 工藤博司)
「動く」と「止まる」のメリハリをつけるダンス
―― 新曲は、ヒップホップ系の激しい動きが特徴だと聞きました。
須田: プロダンスリーグ「第一生命D.LEAGUE」で活躍している「avex ROYALBRATS(エイベックス ロイヤルブラッツ)」さんに振り付けをしていただいています。ゴリゴリのヒップホップで、今までのSKE48にない感じです。重心を低く保つポーズが多いので、今まで使ったことがない筋肉が悲鳴を上げていました。楽曲もそれにぴったりで、歌詞がとってもギュッと詰め込まれているので、かなり早口で歌うことになります。それがまた曲を聞いたときに疾走感があって、今までのSKE48にない感じですね。歌い方や表現の仕方が全くガラッと変わっていて、新しいSKE48という感じが私は好きです。
青海: サビだけで何回も「止まって動く」「そのままゆっくり」とか、本当に細かいところまで「動く」と「止まる」の差をはっきりさせないといけません。おそらく、今までになかった動きなので、たくさん練習して、私達もダンスの先生たちのようにかっこいいパフォーマンスをできるようになりたいです。
―― 楽曲についてはいかがですか。
青海: インスピレーション、一目ぼれについての曲です。ファンの方には想像しやすい楽曲だと思います。例えば私たちがファンの方にレス(声援に応じて視線を返すこと)をしたりウインクしたりすると、その方が「かわいい!」と思ってくれて、次の日に「あの時にウインクしてくれて、すごく好きになっちゃいました」と言ってくださるシチュエーションです。
―― 歌詞には「ラッシュアワーの電車を降りて 自動改札で通せんぼされた 戸惑う君が振り向きながら 急いでる後ろの人に謝った」とあり、「目の前のそんな出来事が 何かしら意味を持ってるようで その日から君の姿をどこかで 探している僕がいた」と続きます。一目ぼれの描写ですね。
青海: 一目ぼれには本当にいろいろなきっかけがあると思うので、ファンの方は「自分の推しは、こういうきっかけで好きになったな」「あのコンサートであの曲を踊ったときの表情が好きで推すようになったな」といったように、自分の思い出に当てはめて振り返ってくれたら嬉しいです。
―― メリハリのある歌詞と「静と動」の区別をつけるダンスはシンクロしている感じもしますね。
須田: 2番のサビの歌詞では「ストップモーション」と言いながら、本当にストップモーションの振り付けがあります。歌詞と振り付けが合うかっこよさを感じてもらえると思います。ピッと止まって、ふわーっと動く感じです。
青海: コマ撮りしているようなダンスです。余韻に浸るというか、さっきまでバキバキに踊っていたのに急にピタッて止まってゆっくり動き、またピッて動き出すという、激しい温度差があります。静と動の強弱が本当に激しい曲になっています。
須田さんが作ってきたSKE48に独りで立ち向かう
―― そこはミュージックビデオ(MV)の見どころのひとつになりそうですね。東京国際フォーラムでの撮影です。先ほどメイキング動画を拝見しましたが(編注:取材時はMV完成前だった)、世代に分かれて戦っているようにも見えます。世代交代がテーマなのでしょうか。
須田: そうです、世代交代で間違いないです。そこで、ストーリー上ではちょっといたずらっ子な魔法使いが...。
青海: 悪役です(笑)。SKE48のメンバーに、いたずらをするんですよ。指パッチンしたり、私がパッて手を広げるとメンバーが飛んでっちゃう。私がSKE48に変化を起こすというか、亜香里さんが作ってきたSKE48に私が独りで立ち向かうというストーリーです。最終的に私は亜香里さんに負けてしまいますが、亜香里さんが私に手を差し伸べてくれて、「あとは任せたよ」って手を引っ張ってくれて、終盤は私がずっとセンターで踊るという構成です。世代交代をMVのストーリーで表したような作品になっています。
須田: 14年になるSKE48の歴史の1ページをそのまま表現したような、世代交代の瞬間を撮っていただいている感じが、きっと面白いんじゃないかなと思います。
―― 今お話がありましたが、メンバーが次々に飛んでいくシーンは印象的ですね。
須田: 私以外のメンバー全員が吹っ飛びました。
青海: そう、私が手をパッて広げると、メンバーがパーンって飛んでっちゃうんですよ。それくらい私は威力を持ってて...。
須田: ただ、私はそれを避けるんです。
「お互いぶつかり合うけど、尊敬してるんだよ」という思いをダンスで伝える
―― 須田さんだけ強かったんですね。
須田: 最強です。(笑)
青海: 13年もやっている先輩には勝てませんでしたね~。
―― ストーリーとしては須田さんが勝ったものの、「悪役」の青海さんをやっつけずに、手を差し伸べて仲良くするわけですね。
青海: そう、いい役。
須田: いいやつなんですよ!
―― 須田さんのグループへの思いを引き継ぐ、といった面もあるのでしょうか。他グループの事例で恐縮ですが、例えば指原莉乃さん(29=19年卒業)がシングル曲としては最後にセンターを務めた「意志」では、指原さんが「HKT48」の文字が入った旗を田中美久さん(21)と松岡はなさん(22)に手渡す場面があります。グループの世代交代の象徴だと受け止められたシーンです。
須田: それをダンスで伝えていますね、SKE48は。
青海: 確かに!
須田: ドラマシーンにセリフはひとつもありませんが、感情とリスペクトを全てダンスだけで表現しています。「お互いぶつかり合うけど、尊敬してるんだよ」というところまでがダンスで伝わるというのが、この作品の1セットで面白いところだと思います。
―― 一度戦った相手とは、仲良くなることも多いですからね。収録で大変だったことはありますか。
須田: 私は踊るのが大変でした。
青海: 確かにねえ。
須田: 卒業を決めた理由のひとつにも、体力的にもベストパフォーマンスがだんだんできなくなってきた、という悔しさもありました。なので、最後に参加させてもらえるのはすごく嬉しいことなのですが、「また体力が大変だ」と思って、最後の最後まで振り絞って、SKE48人生をやりきるという覚悟を決めて、今回の撮影に挑みました。
前作ではコロナ感染で「選抜落ち」していた
―― 青海さんは今作品で初センターです。2つ前の作品「あの頃の君を見つけた」(21年9月発売)で初選抜入りしましたが、新型コロナウイルス感染の影響で、前作「心にFlower」(22年3月発売)には参加できませんでした。そのことをSHOWROOMで泣きながら配信していました。
青海: その情報、いろんなところに出回っているんですよ...!(笑) あまりファンの方に弱みを見せたことはなかったですが、おそらくアイドルを4年間やってきて初めて、ファンの方の前で大泣きして、「悔しい」を表にめちゃくちゃ出して、SHOWROOMでも「むかつく!」って言っちゃったんですよ。事務所やレーベルのスタッフさんも、私やSKE48のことを思ってくれていろいろ考えてくれたから(こその判断)だし、私もなりたくてなったわけでもなかったし...。この状況のせいでチャンスを逃してしまった悔しさにむかついちゃって、何にも当たれなくて、泣きながら配信で言ってしまいました。その頃、亜香里さんから連絡が来て...。
須田: 連絡したっけ?
青海: そうですよ。(笑)「いろんな感情があると思うけど、でも私はSKE48の未来は明るいと思ってるから、ひな乃がいれば安心だと思ってるから、早く戻ってきてね」という前向きなメッセージをくれたときに、ファンの方だけではなく、身近なメンバーやスタッフさんが私のことを必要としてくれているのが本当に嬉しかったです。私の身近な人が、私を応援してくれている限り、私もここでくじけちゃ駄目だと思いました。私はあまり選抜に入りたいとか昇格したいとか、そういう目標をファンの方の前で言ったことがなかったんですよ。だけど、今回「私は選抜に戻ります」と宣言したのは、これ(須田さんからのメッセージ)がきっかけでした。それでファンの皆さんが応援してくれたからこそ、たくさんの方に認めていただいてのポジションだと思います。ファンの皆さんにまた更に恩返ししたいと思いますし、亜香里さんが温かい言葉をくれたからこそ、私も前向きに頑張ろうと思えました。今回は亜香里さんの卒業シングルだからこそ、もっと亜香里さんが楽しく安心して卒業できるように、このシングルを大切にしたいと思います。
―― 青海さんの目標としては「選抜復帰」だったわけですよね。
青海: 選抜復帰です。
須田: 飛び越えたね、けっこう。(笑)
青海: そうなんですよ!だから、ファンの方が多分一番びっくりなんですよね。「えっ、センターまで行っちゃうの?」みたいな。私も言われたときは「選抜復帰しました。おめでとうございます。さらに...」という展開で、「嘘でしょ?」って、私も信じられなかったです。いまだに実感が湧いていないんですよ。
―― 自分も昨日(インタビュー収録の前日)聞いて驚きました。
青海:ですよね!
小室哲哉プロデュース公演の練習で「心が折れかけることも」
―― 「なくはないかな...?」とは思っていましたが、実際に知らされると「おおっ!」という思いです。青海さんが所属する「チームS」では、小室哲哉さんがプロデュースする約11年ぶりの新公演「愛を君に、愛を僕に」公演が22年5月に始まりました。初日を拝見しましたが、SKE48を長く取材している「識者」とも言える記者からは、青海さんのパフォーマンスを絶賛する声が相次ぎました。キャプテンの松本慈子さん(22)の頑張りもあると思いますが、ファンの皆さんの応援と新公演のパフォーマンスが相乗効果を生んだのかもしれませんね。
青海: それしかなかったですね!(練習は)すごく大変な期間で(編注:厳しい指導で知られる牧野アンナさんが担当した)、心が折れかけることもありました。自分の中ですごくたくさん考えさせられる期間でしたが、特に小室哲哉さんはファンの方の青春時代の大スターだったこともあって、ファンの方がすごく楽しみにしてくれていました。私たちは秋元(康)先生の曲でしか踊ったことがなかったからこそ、新公演としてどんなものが見られるんだろう、という期待感もたくさんありました。ファンの皆さんが楽しみにしてくれているのは、プレッシャーでもありましたが、それ以上に、私たちがその期待に応えよう、自分たちも楽しもう、というのも大きかったので、無事に初日を迎えることができて本当に嬉しかったです。
―― 初日終演後の取材では「私たちの目標はSKE48の入口を作ること」「どんどん、いろんなところに扉を作っていきたい」と話していました。初演から3か月がたって、ファンの皆さんの反応はいかがですか。新公演をきっかけに新しく(握手会の代替イベントの)「トーク会」に来るファンは増えましたか。
青海: 本当に増えました。例えば「本当は小室哲哉さんのファンなんですけど、公演に行ってアイドルを初めて見てすごく楽しくて、また行きたいと思いました」「もう劇場に4年も来てなかったんですけど、新公演を見て、ひな乃ちゃんを見つけて、また足を運びたいと思いました」と言ってくださるファンの方もいらっしゃいます。新公演を通して戻ってきてくださったり、新しく好きになってくださる方を本当に身近に感じることができて、自分の目標がこうやってかなっていると思うと、本当に嬉しく思います。あの過酷だった1か月間を乗り越えたからこその今なので、本当に素敵な1か月を過ごさせてもらえたと今は感じます。
―― 初演に向けた練習の様子はYouTubeで公開されているドキュメンタリーでも拝見しました。あの過酷な1か月が、このセンターにつながっていると思いますか。
青海: 本当にそうだと思います。ドキュメンタリーでは伝わらないぐらいの感情だったり、疲労だったり、何か本当にごちゃごちゃで、それでもあれを乗り越えたからこそ、今のチームSや、今の青海ひな乃がいます。公演を終えてから「変わったね」って、すごく言われるようになったんですよ。それはきっと自分の中でひとつの壁を破れたというか、殻を破れたということなので、それをスタッフさんが「期待してもいいのかな」と思ってくれたのかな、と素直に嬉しく思います。
センター抜てきでも「プレッシャーより楽しみが大きい」理由
―― 実際にセンターに立ってみていかがですか。プレッシャーは感じませんか。
青海: 今はプレッシャーよりも、楽しみの方が大きいです。多分それは、周りに頼れる人が増えたからです。(正規メンバーに昇格する前の)研究生の頃は、あまり先輩と関われなかったり、同期とは自主練はしたものの、本当に「バチバチ」していたので、頼りにくかったということがありました。ですが、今は私の周りに頼れるメンバーしかいないことを感じられるので、私が困ったときには助けてくれるという確信があります。だからこそ、プレッシャーより楽しみが大きいと感じているのだと思います。
―― 支えてくれる人が多いのは、グループの層の厚さですね。
青海: そうですよね。SKE48は、いい意味でライバルでもありますが、本当にチームなんですよ。もちろん「バチバチ」はしていますが、仲が悪くなるような「バチバチ」ではなくて互いを高められる。そういうお互いを尊敬、リスペクトし合えている仲なので、すごく私も居心地がいいし、刺激になるので頑張ろうと思います。
(インタビュー後半に続く)
須田亜香里さん プロフィール
すだ・あかり 1991年生まれ、愛知県出身。2009年にSKE48に3期生として加入。チームEのメンバーで同チームのリーダーを務める。4枚目のシングル「1!2!3!4! ヨロシク!」(10年)以降の全シングル表題曲に参加。AKB48のシングル表題曲にも通算18作品参加した。18年の「AKB48 53rdシングル 世界選抜総選挙」では2位にランクイン。21年11月と22年5月にソロライブを開催。22年9月に卒業コンサートを開き、22年11月に卒業予定。
青海ひな乃さん プロフィール
あおうみ・ひなの 2000年生まれ、愛知県出身。18年に9期生としてSKE48に加入。チームS所属。前々作「あの頃の君を見つけた」(21年)で初めて選抜メンバーに選ばれ、今作で初めてセンターポジションに抜てきされた。派生ユニット「カミングフレーバー」のメンバーとしても活動している。