北朝鮮が弾道ミサイル発射を繰り返すなか、朝鮮労働党の創建記念日にあたる2022年10月10日に金正恩総書記が訪れたのは、大規模野菜栽培施設だった。国営メディアが10月11日に報じたところによると、この日は東部の咸鏡南道(ハムギョンナムド)で建設が進んでいた「連浦温室農場」の竣工(しゅんこう)式が行われ、正恩氏はテープカットを行った。
正恩氏は21年6月の朝鮮労働党の会議で「人民の食糧状況が切迫している」と発言。その後も、解決すべき課題のひとつとして「食糧問題」に言及している。今回の野菜栽培施設も、「重大事項」への取り組みの一環だ。この前日には、久々にミサイル発射について国営メディアが報じたばかり。農場完成を報じることで、食糧問題にも取り組んでいることを国内向けにもアピールする狙いがあるとみられる。
着工式にも出席して金正恩氏が自ら「くわ入れ」
国営メディアは5月以降、相次ぐミサイル発射について沈黙を守ってきたが、10月10日になってまとめて報道した。特に10月4日に日本上空を通過したミサイルについては、朝鮮労働党の「持続する朝鮮半島の不安定な情勢に対処して、敵により強力で明白な警告を送ることに関する決定」によって発射され、「新型地対地中・長距離弾道ミサイル」が4500キロ飛行して「太平洋上の設定された標的水域を打撃」した、と説明した。
「連浦温室農場」は、正恩氏が2月には着工式に出席し、自らが「くわ入れ」したという重要プロジェクト。10月10日の創建記念日までの完成を目指していた。正恩氏は着工式の際、「咸興(ハムフン)市と咸鏡南道人民の野菜供給問題」が「重大事項」だとする認識を示している。竣工式を報じる記事でも同様の文言が登場し、それだけ食糧問題を重く受け止めていることをアピールしているとも言えそうだ。
農場の敷地は850ヘクタールほどで、約850棟の温室と1000棟以上の住宅などを備えた。国営メディアでは、朝鮮労働党から国民への「愛の贈り物」だと説明している。
専門サイトは衛星写真根拠に「一部未完成」指摘
韓国メディアは10月4日の弾道ミサイル発射時点で、北朝鮮側が沈黙している理由を「健康状態と食糧事情が悪く、住民たちがミサイル発射を肯定的に受け入れないだろう」とする識者の見方を報じていた。ミサイル発射を認めた直後に農場完成のニュースを流すことで、住民感情に配慮した可能性もある。
ただし、北朝鮮専門サイト「NKニュース」は、衛星写真の分析を根拠に未完成の部分があると報じており「完全に設備を整え、労働者を受け入れる準備ができているかどうかは不明」と指摘している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)