酒のオンラインストア「KURAND」で販売されているロゼワインがSNSで大きな注目を集めている。軽やかで飲みやすいという口コミと同時に、ユニークな商品名が話題になった。その名も「La Mune Ya Tsukuru Rosé(ラ・ムーネ・ヤ・ツクル・ロゼ)」。
ダジャレのような商品名で、70年続けたラムネ製造業を撤退せざるを得なくなったラムネ屋の歴史を残した。J-CASTニュース編集部は2022年10月6日、命名の背景などを取材した。
ラムネ屋が立ち上げたワイナリーを知ってほしい
La Mune Ya Tsukuru Roséは、ラムネ製造会社のマルキヨー(栃木県足利市)と、KURAND(東京都足立区)が共同開発した。白ワイン製法で作り上げた淡いピンク色のロゼワインで、栃木市で育てられたマスカットーベーリーA種を用いる。花屋に訪れたようなフローラルな香りと、軽やかでフレッシュな味わいを楽しむことができるという。
あるツイッターユーザーが10月3日、「すっきり軽やかで呑みやすいんだけど‥‥名前よ(笑)」とツッコミを交えて紹介すると、「思わず声出して笑った」「気になる」「飲んでみたいと思わせるの上手いな」と反響を呼んだ。投稿には、2万件を超えるリツイート、8万4000件を超える「いいね」が寄せられている。
取材に対しKURANDの広報担当者は、ワインを通してマルキヨー工場内に建てられた小さなワイナリー「Cfa Backyard Winery」の取り組みを知ってもらいたいと意気込む。そこで多くの人々の目に留まるよう、KURANDの商品開発チームのマネージャーが命名した。
「通常ワインのネーミングは難しく覚えにくい物が多い中、一度知ったら忘れないインパクトのあるネーミングをつけることで、普段ワインに馴染みのない人でも身近に感じ、興味を持ってもらうきっかけになれたら良いなと考えています」
ラムネ屋が「ワイン」を作る理由
マルキヨーは1951年に創業した清涼飲料水工場。昔ながらの瓶ラムネや、かき氷シロップ、ジュースなどを製造している。なぜワイナリーを設立したのか。創業者を祖父にもつ醸造責任者の増子春香さんは、KURANDを通して次のように説明する。
マルキヨーは、地元を中心に清涼飲料水の販売を続けてきた。しかし昨今の少子化や常連客の高齢化によって、ラムネの製造、販売数は年々減少し続けている。春香さんはできる限りラムネの製造を続けていくため2012年、父・敬公さんとワイナリーを設立。春から夏にはラムネを、ぶどうが収穫時期を迎える秋から冬にはワイン造りに取り組んだ。
ラムネ製造で培った技術はワイン造りにも生かされている。
「ラムネの製造は、ワインなどのアルコールよりも厳しい食品衛生基準があります。
みなさんのイメージでは、ラムネの製造をするより、ワイン醸造のほうが、難しいと思われるとおもいます。
ワインはアルコールなどで(品質が)守られていますが、ラムネは、江戸時代末期に確立された方法で製造する飲料であり、現在の法律に準拠したものを製造するために、サニテーション(洗浄、殺菌)の工程など気をつけなくてはいけない部分がワインよりたくさんあります」
同社では、同じ葡萄品種から、赤、白、ロゼなど各数種類のワインを醸造している。原料が同じであるため、全く同じ状態で醸造すれば同じ味になってしまう。発酵状況で味が左右するワインづくりの現場に、ラムネづくりで培った細やかな衛生環境づくりの知見が生かされたそうだ。
ラムネの息吹を残すことができるワインを生み出せた
KURANDの広報担当者は「そんなワイナリーがつくる本格ロゼワインのストーリーを、本場フランスワインのような響きとパッケージデザインに込めました」と振り返る。ラベルには、昔ながらのラムネ屋をイメージしたイラストを添えた。
ラムネ市場が縮小したことでマルキヨーは現在、北関東唯一のラムネ製造会社になったそうだ。しかし同社も製造を中止すると、春香さんは明かした。
「実は、ラムネの瓶を製造している製瓶工場の縮小により、弊社のラムネ瓶の製造が停止され、現在、弊社にある瓶をもちまして、長年続けておりました『マルキョーラムネ』の製造を取りやめることとなりました(あと3万本ほどあります)。
祖父が人生をかけて続きてきたラムネの製造を中止せざるをえないことはとても残念でありますが、KURAND様に弊社のラムネの息吹を残すことができる製品をワインで生み出していただいたことにとても感謝しております」
La Mune Ya Tsukuru Roséについて、販売サイトやSNSには「さわやかな飲み口に口の中に広がるワインの風味がとてもいい感じ」「口に含むとまずラムネの様な甘みを感じ、だけどその後にワインの渋みも感じれる、とてもすっきりとした後味のワインでした」といった感想が寄せられている。
こうした反響について、マルキヨーの春香さんは「とてもありがたく思っております」と喜びをあらわにする。KURANDの広報担当者も「誰かに教えたくなるようなネーミングで、人から人へ伝わっていくような、一度聞いたら忘れられない個性的な名前を考えてきました。その中で今回は、まさしく人から人へ伝わっていったことが目に見えて感じられた出来事でした」などと振り返った。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)