デジタルカメラの普及により、表舞台から姿を消したフィルムカメラ。しかし、今も根強い需要を持つアイテムがある。フィルムを入れておく円筒形の「フィルムケース」だ。かつては溜まったケースの使い道が議論となったが、今では貴重な「小物入れ」として重宝している人も。フリマアプリでは大量出品され、見た目がそっくりな製品も人気を集めている。
「40個1300円」メルカリで出品
「写すごとに円筒形のフィルムケースがどんどん増えます。ふたが付き、しっかりしているため捨てるのがもったいなくて処理に悩んでいます。いい利用法を教えて下さい」
これは1999年5月28日の朝日新聞夕刊、読者の質問に読者が答える「聞いて教えて」というコーナーで共有されたテーマだ。読者からは「草花の種入れ」「薬入れ」「メダカの餌入れ」「子供の抜けた歯入れ」などのアイデアが寄せられた。
当時カメラメーカー各社がデジカメの高性能化に力を入れはじめていたものの、まだまだフィルムカメラが市場の中心だった時代。記事からは、写真を撮るほどたまっていくケースをどうにかして活用しようとする人々の苦心が伺える。
カメラ映像機器工業会(CIPA)の統計調査によると、2002年にデジカメの世界出荷台数が銀塩カメラ(フィルムカメラやインスタントカメラなど)を上回った。そのデジカメの出荷台数も、カメラ付きスマートフォンの普及により21年にはピーク(10年)の14分の1にまで減少。写真を撮るためにフィルムが必要という概念は、多くの人にとって、どんどん遠い時代のものになっている。
しかし、今も一定のニーズがあるのが「フィルムケース」だ。22年8月31日、J-CASTニュースの取材に答えた40代の男性は、500円玉を入れておく「コインケース」として30年以上前から活用していると説明。「プラモデルの塗料入れ」としても使っているという。また、ツイッター上では「裁縫用具入れ」や「旅行用の粉洗剤入れ」などの用途で、ケースを活用という声が聞かれた。
こうしたニーズを意識したかどうかはわからないが、フリマアプリ「メルカリ」では「10個680円」「40個1300円」などの値段設定で、フィルムケースが大量出品されている例もある。
「フィルムケースに似ている」話題の製品も
35mmフィルムの販売にともない、今もフィルムケースを製造している富士フイルムHD(東京都港区)の広報担当者は9月15日、フィルムを入れる以外の用途でケースが使われていることに「勉強になりました」と驚く。
日本人のフィルムケース愛は、よく似た商品にも注がれている。模型メーカーのウェーブ(武蔵野市)は、プラモデル作りなどに使う塗料を小分けにして入れる「押すだけフタ 塗料ボトル」を21年4月に発売。その見た目がフィルムケースそっくりだったため、ツイッター上では「フィルムケースじゃないですか!」「フィルムケース君。。。生きてたのね」「わざわざ買う時代になったのですね」などと話題になった。
ウェーブ開発部の担当者は9月5日までの取材に「塗料や小さな部品、余った粘土などを保管する容器を探していたところ、ふたを押すだけで密閉できるプラ容器を見つけ、テスト使用したところ大変便利だったため、商品化しました」と販売経緯を説明する。
フィルムケースとの類似性については「昔のフィルムケースに似ているとは感じていましたが、製品には同じ形状でサイズも様々なものがあります。弊社ではフィルムケースより一回り大きいサイズのものも製品化していたため、そもそも『どっちが元なんだろう?』と思っていました」と話す。ツイッター上で注目を集めたことが影響したのか「発売直後は話題性もあり、売れ行きが大変に良かったです」。現在も堅調に販売しているという。
また今年8月には、大手100円ショップでフィルムケースによく似た「プラスチックケース」が売られているとツイッター上で話題に。記者が8月下旬、都内の店舗を訪れたものの、商品はすでに廃盤となっていて買うことができなかった。
令和の時代にあって、小物入れとして活躍しているフィルムケース。小さな容器の「器の大きさ」を、人々は再認識しはじめているのかもしれない。
押すだけでフタができる塗料ボトル!ボトルは透明で溶剤に強い軟質プラ素材となっており、お好みの塗料やサーフェーサーなどの液体の材料を入れることが可能。押すだけフタ 塗料ボトル(小 28ml/8本入) 製品ページ公開しました!2021年4月発売です。https://t.co/dgd6UR7JiP pic.twitter.com/X25GykGcXB
— 株式会社ウェーブ (@wave_corp) April 8, 2021