一時は「ガイド不要論」噴出も...なぜいま注目?
柴さんによると、ディスクガイドは音楽ファンが限られた資金の中でCDを買うための「バイヤーズガイド」として、長く機能してきた。一方で、近年は音楽聴取の主要形態がCD・ダウンロードから、定額(サブスクリプション)サービスや動画サイトなどのストリーミング形式へと移行。低コストで音楽探しができるようになったことで、「ディスクガイド不要論」も噴出したという。
「ストリーミング時代に入り、音楽が購入する対象ではなくなったときに、『ディスクガイドなんて必要ない』という見方も出ました。『聴けるものを全部聴けばいいじゃん。とにかく聴いてしまえば、その良し悪しはわかるんだから』という理屈です。それでも、結果としてガイド本が無くなることはありませんでした」
なぜ、ガイド本はなくならなかったのだろうか。柴さんは、今の時代に「音楽ガイド」が果たしている役割を次のように分析する。
「昔と比べてリリースされる作品が膨大になり、その数は指数関数的に増えています。ジャンルに関しても、00年代までは『ロック』『ヒップホップ』のようにはっきり分けられていたのが、ここ10年で作品をメイン一つのジャンルに位置付けられない派生した『ポストジャンル』が多数という状況が生まれるなど、かなり曖昧になりました。楽曲的にも、ジャンル的にも『情報爆発』が起こっている世の中において、ディスクガイドは『一つの価値観』『一つの切り口』を世に示していると言えます。あるジャンルに興味があるけどまだ詳しくない人や、若い人に『まずはここから』という入り口を示す、そういう役割を果たしているのかなと思いますね」
シンコーミュージックの播磨さんも、「サブスク時代」だからこそ発揮されるディスクガイドの強みがあると話す。
「今は多くの方たちがサブスクなどで音楽を聴いていらっしゃいます。そうなると、レコードやCDに比べて、最低限の情報を得ることが難しいので、多くの作品について手軽に読めるディスクガイドというのは大きな存在価値があると考えています。サブスクでは得にくい情報や、簡潔で的確な解説は、リスナーが音楽の幅を広げ、掘り下げるためにある意味とても便利なものです。かつてはレコードやCDのクレジット・解説を読みながら聴いていたのが、今ではディスクガイドを読みながらサブスクで聴く、ということかと思います」
サブスクの普及で、好きな時に「音楽探し」ができるようになったこの時代。広大な音楽の森で迷わないための「羅針盤」が、いま求められているのかもしれない。
(J-CASTニュース記者 佐藤庄之介)