英国の調査報道団体「ベリングキャット」の創設者のエリオット・ヒギンズ氏が2022年9月20日、アジア太平洋地域の報道関係者向けにオンラインで講演した。
ベリングキャットは公開情報を分析する「オシント」(オープンソース・インテリジェンス)で知られ、多くの偽情報(disinformation、いわゆる「フェイクニュース」)を見破ってきた。こういった偽情報はなぜ生まれ、拡散するのか。その背景を解説した。
陰謀論者とそれ以外の人との違いは...?
「ベリングキャット」の最近の活動では、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャで見つかった多数の遺体が、ロシア軍の支配下にあった時期から存在した可能性が高いことを衛星写真の分析をもとに指摘。虐殺を否定するロシア側の主張の矛盾を明らかにした。
ヒギンズ氏は、外部の何者かがオンラインコミュニティーに偽情報を流し、それが拡散するとの見方には「根本的な誤解」があり、偽情報はコミュニティー内部で作られるとみる。コミュニティーは偽情報を生み出すことそのものが目的なのではなく、「政府やメディア、NGO、医療関係者などの主要な情報源によって作り出された『偽情報』に対抗する」ことが目的になっているという。偽情報を生み出すコミュニティーは、最初から偽情報を発信しているわけではなく、何らかの集まりが変質してできることがある。例えばシリアでの化学兵器使用を否定するコミュニティーはイラク戦争に反対する運動に端を発し、新型コロナウイルスやワクチンをめぐる陰謀論を発するコミュニティーは、元々は代替医療に関連するコミュニティーだった。こういった人々に共通しているのは「ある種の権威に対して根本的な不信感を抱いていること」。さらに、陰謀論にのめり込んでいる人と、そうでない人の決定的な違いは「彼らが世界をどのように見ているか」だとみる。
陰謀論にのめりこむ人は、「裏切られたこと」が、自らを定義づけるものだと思っていると説明。ソーシャルメディア上で自分に似たような考え方しか聞こえなくなる、いわゆる「エコーチェンバー」の問題にも言及した。
「ソーシャルメディアの領域は、アルゴリズムの時代へと急速に変化したとさえ言える。検索エンジンやソーシャルメディア企業は、ユーザーが見たいと思うコンテンツや、すでに見たコンテンツに基づいたコンテンツを積極的に提供することで、彼らの信念を強化し、代替メディアの生態系に燃料を供給する」