来日したエリザベス女王「新幹線は、時計より正確だときいています」 威信をかけた現場の奮闘

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   エリザベス英女王の2022年9月9日(日本時間)の死去を受け、SNSでは来日時のエピソードに関心が集まっている。

   女王は名古屋駅から新幹線に乗り込む直前、「新幹線は、時計より正確だときいています」とつぶやいた。しかし天候不良などで遅延が発生し、東京駅への定時到着は不可能に近かった。国鉄マンは威信をかけ、総力を挙げて挑んだ。

  • エリザベス女王(写真:Press Association/アフロ)
    エリザベス女王(写真:Press Association/アフロ)
  • 株式会社ロケットジャパンのウェブサイトから引用
    株式会社ロケットジャパンのウェブサイトから引用
  • エリザベス女王(写真:Press Association/アフロ)
  • 株式会社ロケットジャパンのウェブサイトから引用

往路はストで飛行機に...

   エリザベス女王は1975年5月7日、フィリップ殿下とともに日本を訪れた。英元首の初来日だった。5泊6日の日程で、天皇陛下主催の宮中晩餐会や、都心でのパレードなどに参加し、一挙手一投足が注目された。

   トラブルもあった。5月10日の東京から京都への移動は東海道新幹線を使う予定だったが、国鉄の賃上げストライキが長引き断念。空路に変更された。

   『新幹線と日本の半世紀』(交通新聞社新書)によれば、当時の木村睦男・運輸相はエリザベス女王と面会し、「新幹線にお乗りいただけなくなって誠に残念です」「(帰路には)名古屋からお乗りいただけるように万全の策を取ります」と謝意を伝えると、女王は「どうぞご心配なく」と笑顔を浮かべ、「ストはいつごろ終わりますか」と尋ねた。

   12日の帰京は、新幹線が無事運行した。エリザベス女王の待ちに待った乗車時のエピソードが、JR東海の1994年のポスター広告で詳説されている。

   キャッチコピー「幸福な仕事」とともに、新幹線にまつわる様々な出来事が辞書のように並ぶ。「とけい【時計】」という項目は、次の書き出しで始まる。「『新幹線は、時計より正確だときいています』一九七五年五月一二日、名古屋駅から新幹線に乗り込む直前、イギリスのエリザベス女王からお言葉がありました」

「幹部にも、諦めのムードが漂います」

   エリザベス女王の期待に反し、この日はあいにく遅延が生じていた。女王へのおもてなしのため、乗車中にも遅れはさらに広がる。文章はこう続く。

「しかし実際には、大雨による徐行で名古屋到着は二分の遅れ。さらに、女王陛下の荷物一七二個を積み込むのに時間がかかり、発車は三分の遅れ。そして、浜名湖付近で徐行、遅れは四分にひろがりました。また、富士川付近では、雲間にのぞく富士山を女王陛下にゆっくりご覧いただくため、スピードダウン。三島を通過する時点で、遅れを一分取り戻すのが精一杯でした」

   それでも期待に応えるべく、不可能ともいえる挑戦をした。

「新幹線は、最高速度になるとAТCが作動し自動的に減速します。当時、新幹線の最高速度は時速二一〇キロ。そこで、ギリギリの時速二〇九キロで走らせる運転士の腕に"時計より正確"な新幹線の威信がかかっていました。東京駅前の本社五階、総裁室で定時到着を願う幹部にも、諦めのムードが漂います。しかしこの時、運転士だけは、定時到着を信じて時速二〇九キロで走り続けていたのです」

   最後は「そして、一三時五六分定刻。女王陛下の新幹線は、何事もなかったように、ゆうゆうとホームに到着しました」と締めくくっている。

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