為替は二国間通貨の交換比率だ。交換比率はそれぞれの量の比に収束する傾向があり、為替は二国間通貨量の予想比にほぼなっている。これは、国際金融理論にも整合的であり、これまでの現実をよく説明している。
円安はGDPプラス要因
具体的には、2022年7月の日米のマネタリーベースはそれぞれ672兆円、5.5兆ドルであり、その比は122円/ドル。日本のマネタリーベースは金融緩和基調なので増加する一方、新型コロナウイルス禍での日銀貸出がコロナの落ち着きにともない剥落するので横ばいか若干増、アメリカのマネタリーベースは金融引き締めでさらに減少すると予想しているのだろう。いずれにしても、これまでの為替は、現実の日米マネタリーベースから大きく乖離したことはないので、円安が際限なく続くわけではない。
もっとも、円安のどこが日本経済に問題なのか。円安対策が必要とマスコミは囃し立てるが、経済理論からは不要だ。そもそも、円安はGDPプラス要因だ。これは、古今東西、自国通貨安は「近隣窮乏化政策」として知られている。海外から文句が来ることはあっても、国内から止めることは国益に反する。本コラムで書いてきたように、これは国際機関での経済分析からも知られている。ざっくり言えば、10%の円安でGDPは1%程度高まる。その結果、税収増も望めるので、円安は抑えてはいけない。
もちろん、輸出比率が低く輸入比率が高い中小企業には逆風だが、大企業は逆に追い風でそのため中小企業のマイナスを補ってあまりがあるので、GDPや税収が増えるわけだ。中小企業には景気対策の中で、手当を行えばよく、円安を抑えては元も子もない。
円安で困った人に税収増を使えないことが問題
円安が日本経済にプラスという数字はでている。財務省が発表した2021年度の法人企業統計で、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益が前年度比33.5%増の83兆9247億円と過去最大となった。その統計では、2022年4-6月の分も公表され、全産業の営業利益は前年同期比13.1%増の17兆6716億円、経常利益は前年同期比17.6%増の28兆3181億円。経常利益は製造業、非製造業のそれぞれでも過去最高である。
営業利益が伸びているのは、新型コロナウイルス禍からの経済・社会活動の正常化で業績回復が進んだからだ。
経常利益が営業利益より伸びているのは、非営業利益の投資収益が伸びているからだ。例えば、受取利息等は7兆3573億円で過去最高だった。
その主因は円安による海外投資収益の増加である。円安効果は輸出拡大という形でも現れるが、過去の海外投資収益という形でも表れる。
一般に現地生産に移行していると輸出増にならないので、円安効果は限定的と言われるが、現地生産なら海外投資を既に実施しているはずで、その場合には輸出増でなく海外投資収益増に替わっているはずだ。今回の法人企業統計では、その効果が強く表れている。
円安はGDP増加、税収増加要因なので問題ではなく、円安で困った人に税収増を使えないことが問題だ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。