手足3本失った体でダイビング 「下手すれば命を落としかねない」...それでも僕が挑戦した理由

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   山田千紘さん(30)は先日、スキューバダイビングに挑戦した。20歳の時に遭った事故で手足が3本ない。「この体で本当にできるのか」。不安に駆られながらも行動に移すと、周囲の支えを受けて無事、海に潜ることができた。

   実は手足を失った後のある経験で、水や海に恐怖心を抱いてきた。それでもなぜダイビングに挑んだのか。そして気付いたことは何か。「自分1人では絶対にできなかった」という山田さん。思いを語る。

   【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)

  • ダイビングする山田千紘さん
    ダイビングする山田千紘さん
  • ダイビングする山田千紘さん

見えた景色は凄く良かった

   沖縄へ行ってスキューバダイビングをしました。両足と左手がない僕のような障害者でも対応しているダイビングショップがあるんです。僕はフィンなどがつけられないけど、インストラクターの方がぴったりついてくれて、身をゆだねることで水中を移動できます。

   海中での呼吸法など、ダイビングに必要な練習を陸上でした後、義足を外して車いすで船に乗せてもらいました。ウェットスーツ、ボンベ、ゴーグルなど装備をつけて、ポイントに着いたらインストラクターの方と一緒に海に潜ります。

   海に入った瞬間は「溺れるかもしれない」と思ってめちゃくちゃ怖かったけど、インストラクターの方が落ち着かせてくれました。僕は呼吸など基本的なことに集中。だんだん喜びのほうが大きくなって、見えた景色は凄く良かった。自力で移動はできないけど、どの方向に行きたいかは指差しなどでインストラクターの方とコミュニケーションを取りながら進みました。

   初心者の僕でも水深12メートルまで潜れました。青の洞窟を見たり、魚と戯れたり、サンゴやイソギンチャクを見たりしました。1回約40分を2回潜りました。

   ダイビングは僕にとって1つのチャレンジでした。「手足3本ないからできないだろう」と思うかもしれません。確かに手足がある人と全く同じ方法ではできません。だけど、やり方を一緒に考えてくれる人がいたことで、できないと思われることもできました。自分1人では絶対にできなかったけど、インストラクターやダイビング経験者の友人のおかげで、僕は海に潜ることができました。

   インスタグラムに投稿したら反響が大きかったです。「自分も潜りたい」と言ってくれる障害者のフォロワーもいました。危険は伴うし、誰でもできるとは言えませんが、体に障害があってもダイビングはできるんだと知りました。

避けてきたことにもチャレンジしよう

ダイビングする山田千紘さん
ダイビングする山田千紘さん

   僕は手足を3本失って今年で10年が経ちます。今まで色々とチャレンジしてきたけど、避けてきたこともありました。それが、水に入ることです。

   事故の後にリハビリで入院していた病院に、プールがありました。スタッフに付き添ってもらいながらそのプールに入った時、力んでいたのか、浮くことができませんでした。クロールをしようとしても足がないからバタ足できない。平泳ぎも左手しかないから、左右のバランスが悪い。息継ぎもできないくらい沈んでしまって、全然泳げませんでした。足が底につかないこともあり、それ以来、水や海に対する恐怖心を持ってしまいました。

   この節目の年に、避けてきたことにもチャレンジしようと思って、やろうと決めたのがダイビングでした。最初はこの体で本当にできるかどうか分かりませんでした。海に潜るので、下手をすれば命を落としかねない。不安な中で調べていったら、障害者をサポートしてくれるダイビングショップがあることを知りました。インターネットで検索すると、多くはないけど結構出てきます。

   「なぜわざわざ海に潜るんですか?」と聞かれたことがあります。僕に何ができるかを知ってもらうことで救われる人がいると思うから、というのが大きな理由です。

   ケガした時に「自分はもう何もできない」と思っていました。確かにできないことはあるけど、いざやってみたらできることもたくさんありました。最初はこの体になってマイナスなことばかりと思っていたけど、自分がやっていることをYouTubeやSNSなどで発信することで、プラスに思ってくれる人たちがいました。挑戦する姿を見てもらうことで、誰か1人にでも役立ててもらえたり、勇気や希望に繋がったりする。そう実感できるから僕はチャレンジを続けています。

1人でできなければ誰かと一緒に進めばいい

ダイビングする山田千紘さん
ダイビングする山田千紘さん

   もちろん僕自身も純粋にワクワクします。チャレンジして成功したら嬉しいし、失敗しても次は成功できるように頑張ることで充実します。

   「自分にできるかな?」と想像するだけで終わらず、大事なのは行動に移すこと。障害者に対応したダイビングショップの存在も、動き出して初めて知ることができました。実際に動いてみることで、ここまではできるとか、ここからはできないとか、でもこうやったらできるんじゃないかとか、新しい自分を発見できるのが嬉しいです。逆に両手両足があった頃、なぜ今のようにチャレンジしなかったんだろうとも思います。

   僕にとっては、行動して挑戦した時点で一歩踏み出しているので「プラス1」。失敗しても「マイナス1」で、結果「プラスマイナス0」に戻るだけです。成功できるように考えて再挑戦し、再び失敗したとしてもまた「プラマイ0」です。挑戦した時点でマイナスにはならず、成功したらプラスがさらに積み上がります。挑戦するということを、僕はそうやってポジティブに捉えています。

   海や水が怖いと避けていた自分がいたけど、僕なりに恐怖を乗り越えてダイビングへのチャレンジという一歩を踏み出したことで、自分の中の可能性がまた広がりました。1人ではできないことも、誰かと一緒に進めばいい、サポートしてくれる人がいるんだと思いました。どうしてもできないことは自分1人でやらないといけないと思わなくていい。支えがあって初めてできることはたくさんあります。

   今回支えてくれた方々には感謝しかありません。みんながいるからこそ僕にも成し遂げられることがあると、改めて実感しました。そして僕も、支えてもらうだけではなく、自分の挑戦を発信することで、今度はそれを知った誰かが力に変えてくれるかもしれない。そうやって活力や感謝が巡っていけばいいなと思います。

(構成:J-CASTニュース編集部 青木正典)

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