静岡県内などで運行する「伊豆箱根バス」(静岡県三島市)の路線バスが、マスク着用を拒否した女性客を途中で降車させたとして、国土交通省の中部運輸局から行政処分を受け、ネット上で様々な意見が寄せられている。
処分に踏み切った根拠について、中部運輸局静岡運輸支局に詳しく話を聞いた。
「この行政処分は厳しすぎる」との声も
「正当な事由無く運行の継続を拒絶した」。中部運輸局は2022年9月1日、主にこんな理由から、伊豆箱根バスを処分したと発表し、同バスも同日、この処分についてお知らせを出した。
発表や報道によると、静岡県伊豆の国市内で4月7日午前、伊豆・三津シーパラダイス線のバスに乗った女性客に対し、男性運転手が車内アナウンスなどでマスクの着用を求めたところ、女性客は拒否して車内で言い合いになった。運転手は、バス停ではない場所で停車し、「降りて下さい」と言って女性客を降車させた。当時、バスには約25人が乗車していた。
これに対し、女性から伊豆箱根バスに対しクレームがあり、中部運輸局が同22日に監査を行った。そして、9月1日になって、道路運送法違反でバス2台を各25日間にわたって使用停止とする処分を行った。伊豆箱根バスでは、お知らせでこのことを報告し、「当社といたしましては、今般の処分を厳粛にかつ真摯に受け止め、再発防止に向けて全力で取り組んでまいります」とのコメントを出した。
この内容がツイッター上などで話題になると、処分に対し、賛否様々な意見が書き込まれた。「バス悪くない」「ルール守れない客は、公共交通機関に乗せないで」「この行政処分は厳しすぎる」と運転手に同情する声がある一方で、「バス運転手の勇み足」「バス停じゃないところで降ろしちゃだめだろ」と処分に理解を示す向きもあった。
ノーマスクは「公序良俗違反」に当たる?中部運輸局の見解は...
新型コロナウイルスの感染防止のため、伊豆箱根バスでは、乗客にマスクの着用を呼びかけている。マスクを拒否した客を降車させると、処分の対象になるのだろうか。
中部運輸局の静岡運輸支局は9月2日、J-CASTニュースの取材に対し、公序良俗に反するなどの場合を除いて乗車拒否してはならないとした道路運送法第13条違反をまず挙げた。
「運輸省令の規則第13条に、『泥酔した者又は不潔な服装をした者等であつて、他の旅客の迷惑となるおそれのある者』は乗車拒否できるとあります。こうした正当な理由があればいいのですが、マスクをしないことはこれに当たりません」
ノーマスクが「迷惑」に当たらないとした理由については、こう説明した。
「迷惑というのは、例えば、車内で暴れて制止に従わないことで、マスクをしないことが公序良俗違反に当たるとはみなされません。マスク着用は、あくまでもお願いであって、未着用を制止したりするものではないからです。道路運送では、乗車してもらうことがまず大原則になります」
また、運行計画に沿って業務を行わなければならないとした道路運送法第16条第1項違反も指摘した。「バス停は、安全を確認して設定してある場所です。バス停でないところで乗客を降ろしたことは、運行通りに業務をしていないことになります」
さらに、運転手に対する指導監督を適切に行わなければならないとした道路運送法第27条第3項違反も挙げており、「乗車拒否やバス停以外の降車があり、指導が行き渡っていませんでした」ともした。
伊豆箱根バス「不服申し立てを行うことは考えていません」
バス2台を各25日間使用停止とした今回の処分について、静岡運輸支局は、道路運送法第13条違反、16条違反、27条違反の各処分日数をもとに決めたとしている。
「処分が厳しすぎる」といった声が出ていることについては、「法令に照らしますと、このような処分になりますので、適正だと考えています」と説明した。
伊豆箱根バスの担当者は9月2日、処分について、「乗車拒否などは違反に当たり、不適切だったと考えていますので、不服申し立てを行うことは考えていません」と取材に答えた。
今回の件は、4月7日のうちに女性客から営業所に「バスから降ろされてしまった」と苦情の電話があって、女性客には、謝罪したうえ、タクシーを手配したという。運転手に違反行為が認められたため、翌8日に中部運輸局に電話で報告したとした。女性客がなぜマスクをしなかったのかについては、確認が取れていないという。
なお、バス2台が使用停止となったが、予備車両があるため、路線バスの減便や運休はないとしている。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)