国の名勝・天然記念物「高千穂峡」の上流域で大規模な産業廃棄物処分場計画が持ち上がり、宮崎県高千穂町が観光などへの影響を懸念している。
処分場は、隣の熊本県内で計画されており、宮崎県内では、まだ住民説明会が開かれていない状況だ。一方、処分場を計画する業者は、「排水は、悪影響が出ないように、基準以下に処理してから放流します」と取材に説明し、建設を進める構えを見せている。
「熊本県内の処分場容量が減っており、安定的な処理を進めるため」
高千穂峡と言えば、柱状の崖から滝が流れ落ち、その渓谷を貸しボートで楽しめる宮崎県きっての観光スポットだ。渓谷は、天照大神が隠れたとされる「天岩戸(あまのいわと)」の神話で知られている。
阿蘇山の噴火で発生した火砕流が五ケ瀬川に沿って流れた後、急激に冷やされて柱状の崖ができたとされる。
産廃処分場は、その上流域の熊本県山都町(やまとちょう)東竹原(ひがしたけばる)で計画されている。毎日新聞の7月24日付記事によると、日本書紀に登場する神話「天孫降臨」の舞台となった高千穂峰に連なる山間地だ。水面下で用地買収が進んで、21年秋に処分場の話が持ち上がった。
これに対して、地下水の汚染などを心配した一部住民らが22年1月に「東竹原産廃阻止期成会」をつくり、地元紙の熊本日日新聞が2月13日付朝刊で、処分場が計画され、反対運動が起きていると大きく報じた。住民らは同14日、計画への反対を求める請願を山都町議会に行い、3月定例議会で継続審査となった。
その後、処分場を計画している熊本市内の産廃業者「星山商店」が、5月に山都町で、6月に高森町でそれぞれ住民説明会を行った。同社が公式サイトに載せている「処理場計画」によると、熊本県内の最終処分場で受け入れ可能な容量が減っており、安定的な処理を進めるためというのが東竹原で計画した理由だ。
排水は「水処理施設に送って基準以下にしてから川に放流」
処分場は、約19ヘクタールを予定しており、東京ドーム4つ分になる。埋め立てる産廃は、200~300万立方メートルで、ドーム2つ分ぐらいに相当する。28年度中に稼働を始めたい考えで、埋め立てる期間は、30~60年を予定している。
この計画では、地下水の汚染を防ぐため、処理場内に遮水シートを敷くなどするほか、排水については、水処理施設に送って法律で定められた基準以下にしてから川に放流するとしている。
すでに8月22日から環境アセスメントに入っており、星山商店では、1か月かけて公式サイトなどを通じて意見を募っている。一方、熊本日日新聞によると、反対する一部住民らが同28日に独自の現地説明会を開き、宮崎県からは、放流する川の下流域に当たる高千穂町の町民も参加した。
そして、30日になって、宮崎の地元紙の宮崎日日新聞が、五ケ瀬川の上流域で産廃処分場が計画され、高千穂町が影響を懸念しているとする記事を朝刊で大きく報じた。記事では、甲斐宗之町長が「熊本県側などからは何も説明を受けておらず、計画について情報収集したい。高千穂峡もある五ケ瀬川の上流部に大規模な処分場ができれば、観光業などにもマイナスの影響があるのではと懸念している」などと話したことを紹介した。
高千穂町の企画観光課は9月1日、J-CASTニュースの取材に対し、高千穂峡への影響について、こう話した。
「一番の観光地に影響が出ると困るので、今後を懸念している」
「情報が入ってきておらず収集しているところですので、影響については何とも言えません。しかし、一番の観光地に影響が出ると困りますので、今後について懸念しています」
同町の総務課によると、甲斐町長らが処分場の反対住民から8月末に話を聞く機会があったといい、今後は、宮崎県ともに、事実関係を調べて、高千穂峡などに影響があるかどうか判断したいとしている。
宮崎県の循環社会推進課は9月1日、「処分場を許可する熊本県から情報をもらって状況を確認しており、今後の対応を検討しています。県内では、住民説明会はまだ行われておらず、流域の住民から説明を求められれば、熊本県に働きかける必要が出てくるかもしれません」と取材に述べた。
処分場計画を進める星山商店の企画開発部は1日、取材にこう説明した。
「排水は、高千穂峡などに悪影響が出ないように、基準以下に処理してから放流します。また、遮水シートは、破れても自己修復するタイプなどを候補に挙げており、どんな構造のシートが最適か環境アセスメントを行ってから決めます」
宮崎県内でも住民説明会を今後行うかについては、こう話した。
「熊本県の担当者と話して調整していますが、やる方向で考えています。社内会議をしてから、今後の方針を決めるつもりでいます」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)