虫ケア用品大手・アース製薬のインスタグラムが、フォロワーを巻き込みながら急成長を遂げている。
「もしもゴキブリがインスタグラムをはじめたら」という設定が好評で、主人公の手に汗握る冒険に多くの人が行方を見守った。
同社によれば、これまでのプロモーションとは一線を画す挑戦的な企画だという。ゴキブリの習性を忠実に再現するため勉強会まで実施した。
「大きいバケモノに急に襲われて...」
アース製薬は2022年6月17日から、インスタグラムの運用を始めた。プレスリリースでは開設の目的を「多角的な視点で商品の魅力を発信してまいります」と説明し、最初の投稿はキャンペーンの宣伝だった。
それ以降、"中の人"の日常を切り取ったかのような投稿が続く。6月22日に晴天を収めた写真とともに「あたたかくて好きな季節がやってきた~!」と書き込むと、24日には「友達に呼ばれてちょっとお出かけです!」と報告し、友人宅での出来事が連日更新されるようになった。
「目的地に到着 いいね、めちゃくちゃワクワクする!お邪魔しまーす!#ホームパーティ」
「うわー俺好みの場所すぎる」
「友達と一緒にご馳走!うますぎるよ~幸せ。#パスタ」
「トイレでひと休み。なんかトイレって落ち着くよね笑」
7月14日から、意味深長な内容を含むようになる。友人が行方不明になり、再会を果たすも「なんか意味わかんないくらい大きいバケモノに急に襲われて死にかけたらしい」
"中の人"もこの怪物に遭遇した。「まって、なんかいる。。。なんだあのでかいの。。。」「マジでやばい。とにかく隠れよう」。添えられた写真には、人間の脚が巨人のごとく大写しされている。
どこからかエビの香ばしい匂い
なんとか難を逃れるも、数日後には「急に明るくなったと思ったらバケモンに襲われた」とスリッパの形をした鈍器のような物でふたたび急襲されたと明かした。「間一髪でかわしたけどマジでやばかった。。。」と緊迫の状況を振り返っている。
空腹が続き、床に落ちていたパンくずで飢えをしのいでいると、どこからかエビの匂いがただよってきた。「メチャクチャ美味しそうな匂いがする」と興奮気味だ。
ニオイの元は、ベッドの下に置かれたカラフルな箱だった。「なんか友達っぽいのがいない。。。?」と不審に思っていると、いきなり魔の手が迫った。スプレーが噴射され、回避を試みるも少し付着してしまった。「めちゃくちゃ冷たかった」と感想を述べ、しばらく更新が止まった。
8月24日にようやく近況が報告されるも、断末魔の叫びだった。「身体が。。。もう一歩も動けない。。。#謎スプレーの力 #えぐい #完敗 #ゴキジェットっていうらしい」
生活者も呼応「だめ!逃げて!!」
ゴキブリ目線の臨場感あふれる発信は、生活者の間で注目を集めた。
8月11日に一般ユーザーがツイッターで紹介すると、2万5000以上のリツイート(拡散)、10万以上のいいねを獲得し、ユニークな発想が好評を博した。
インスタグラムのコメント欄に寄せられた、生活者からの愛憎半ばする反応も盛り上がりに一役買った。
パンくずを見つけた場面では「ごちそうだね!」「よかった、よかった笑」と励ましがある一方、「よかったねー!って応援していいものか(泣き笑い)」「そっか...食べこぼしとかも気を付けて掃除しないとなぁ...」と複雑な心境も書き込まれた。
人間に遭遇すると「ここから逃げて~!外で暮らして~!それがバケモノにとっても君にとっても一番なんだよ」「頑張れ!!暗くなったら移動してみて!!」。カラフルな箱こと「ごきぶりホイホイ」に遭遇すると、「(友人が)静かだね......?」「だめ!だめ!逃げて!!!!」といった感想が続出した。
運用チームでゴキブリの勉強会
アース製薬広報室は29日、J-CASTニュースの取材に、一連のストーリーの背景に逆転の発想があったとする。
インスタグラム開設は消費財メーカーの中では後発で、「インスタグラムユーザーは20~40代女性が多く、アース製薬のコミュニケーションターゲットと一致しており、年々増加しているため避けては通れない状況になっていました」と課題意識から運用を決めた。
しかし、インスタグラムは写真中心のSNSで、生活者への配慮から表現方法に悩んだ。同社は虫ケア用品のプロモーションで、これまで虫を直接出すことはなかったためだ。「特にゴキブリは見たくない虫の代表格で表現としては出さないことが得策だと考えています」
そこで、「虫を出さないで虫ケア用品を訴求するには、逆転の発想から虫が撮った写真を投稿すれば虫が写ることを抑え、かつ虫を意識できるのではと考えて実施に至りました。ゴキブリ目線にすることで家の中の写真になり、生活の中に溶け込んでいる虫ケア用品以外のモンダミンや温泡など、日用品のラインナップも紹介できると考えました」
「もしもゴキブリがインスタグラムをはじめたら」という設定(運用チームでは「G劇場」と呼ばれる)が固まると、忠実に再現するためにゴキブリの習性を学ぶ勉強会まで実施した。最初は人間の投稿だと思わせ、徐々にゴキブリによる投稿だと分かるよう工夫した。
続編の予定は?
インスタグラムの企業アカウントは競合を含め群雄割拠だが、アース製薬は開始から2か月半で3万6000人のフォロワーを得た。
いわゆる「バズ」は狙っていなかったが、KPI(重要評価指標)にはツイッターでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)を設定した。前述の8月11日の紹介ツイートをきっかけに、投稿への言及は急上昇した。「投稿自体のインプレッション(表示回数)とUGCを見ながら、今後の企画に活かしていく予定です」
8月末で「G劇場」は終了するも、要望を受けて続編も検討している。「インスタグラムアカウントでありながらツイッターでツイートしたくなるコンテンツ制作を心がけています。インスタグラムでツイッターっぽいことをできれば良いと思っています」と意気込んだ。
(9月8日18時追記:記事の一部を修正しました)