「柴犬が空港でお出迎え」――島根県・国道191号線沿いのバス停に、こんなポスターが掲示されていたとツイッターで話題になった。赤背景に力強い白文字のフォントでタイトルが書かれたポスターには、柴犬20匹の名簿や、空港で人々を迎える柴犬の様子が掲載されていた。
柴犬がお出迎えしているのは、島根県西部にある萩・石見空港。毎月第1・3土曜日、午前便で訪れた人々を10匹以上の柴犬が歓迎する。ツイッターでは、「こんな空港あるんですね!」「お出迎えされたい」などと大きな注目を集めている。
J-CASTニュースは企画者に取材した。
益田市は柴犬の聖地だった!
柴犬が空港でお出迎えするサービスは、空港を管理・運営する石見空港ターミナルビル(島根県益田市)の経営企画部長・西松基さんが企画した。益田市が柴犬発祥の地と知り、その魅力を伝えていきたいと感じたそうだ。
現在の柴犬のルーツは益田市美都町にいた石州犬「石号」だと言われており、空港から車で45分ほどの場所に柴犬の聖地「石号の里」がある。石号の暮らしていた下山信一さんの家が残されており。石号の記録や調査記録などが展示されている。
「益田市が柴犬の聖地であることは、ここ4~5年で広まりました。『石州犬研究室』を立ち上げた河部真弓さんが石号の飼い主や住まいを突き止め、地域の人々ともに石号の石像や記念館を作り、観光名所となりました」
西松さんは河部さんの活動を見聞きする中で、柴犬が国内外で注目を集めていることを知り、「柴犬の聖地」が空港に人々を呼び込むきっかけになるのではないかと考えた。
小さな空港を維持するために奮闘
萩・石見空港は、1日に東京(羽田)便が2往復するだけの小さな空港だ。多くの利用者は観光客。小京都として知られる津和野町や、幕末維新志士ゆかりの地である山口県・萩市を訪れる人が利用する。
わずかな便を維持するために空港では様々な取り組みを続けている。例えば滑走路を走れるマラソン大会を開催しているほか、空港で職員が作った蜂蜜を販売している。
新型コロナウイルス感染症拡大前までは、こうした取り組みによって利用者数は伸び続け、年間で14万7000人が利用するようになった。しかしコロナ禍によって利用客は激減。島根県の発表した萩・石見空港の年度別利用状況によれば、昨年度の利用者数は3万6000人ほどだった。
西松さんはコロナ拡大前から柴犬の企画を進めていたが、20年から21年は飛行機が飛ばない日もあった。コロナ情勢を見極め、22年6月になってようやく柴犬によるお出迎えサービスを実現した。
「お出迎えを行う柴犬たちは人懐っこいです。空港には10~15匹くらいが揃いますが、最初は犬同士でじゃれたり吠えあったりしています。しかしどういうわけか、お客さんが来る前には落ち着いています。この前5回目を実施しましたが、だんだん慣れているように思います」
お出迎えサービスのために「益田柴犬育成会」結成
企画を実施するにあたり、西松さんは純粋な日本犬の保存を目的とする全国組織「日本犬保存会」の関係者に相談したという。するとお出迎えサービスに参加したい飼い主が集まり「益田柴犬育成会」が立ち上がった。参加者の柴犬はみな血統書つきで、石号の子孫とみられる。
「飼い主の皆さんは柴犬にかなり思い入れがあって、空港で多くの人々に見てもらえるのはとても嬉しいそうです。当初は5匹くらいでのお出迎えになると思っていましたが、お出迎えに参加したいという方が多くいつも10匹以上が参加しています。
ポスターに名簿が載っているのも、20頭を知ってほしいという思いからだと思います」
柴犬お出迎えサービスがツイッターで紹介され、ウェブニュースにも取り上げられると、空港への問い合わせも増えた。今週は4~5件の連絡があり、「フィンランド人の娘婿が、柴犬が大好きで興味を持っているようなので10月に連れていきたい」といった熱烈な声もあったそうだ。
「何かのついでではなく、柴犬のお出迎えを目的に空港を利用したい人が現れたことに、主催者でありながらびっくりしています。ここまでの反響になると思っていなかったので、実際に来たい方がいらっしゃることが分かって感動しています。いい意味で意外な喜びがありましたし、柴犬ファンの皆様の情熱を感じました。今後はもっと空港からの情報発信に努めていきたいです」
柴犬のお出迎えサービスはこれまで5回実施しており、今後も開催予定。最新の開催情報は空港のフェイスブックで発信する。
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)
(30日20時30分追記:記事の一部を修正しました。)