コロナ禍で韓国への観光旅行が難しくなっている間に、ソウルに新たな観光スポットがお目見えしている。約70年間にわたって、大統領府として韓国の政治の舞台になってきた青瓦台(チョンワデ、せいがだい)だ。
2022年5月に就任した尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が、青瓦台は「帝王的権力の象徴」だとして大統領府を南に5キロほど離れた龍山(ヨンサン)に移転。就任初日に青瓦台を市民に開放したためだ。日本人観光客は8月限定で韓国に「ビザなし」で渡航が可能。8月下旬に記者が訪れた際も青瓦台は多くの市民でにぎわっていたが、外国人を見かけることはできなかった。9月以降もビザなしが継続されれば、日本人にとっても有力なソウル観光の候補になりそうだ。
外国人は予約なしで観覧できる
「青瓦台」は屋根に鮮やかな青い瓦を使用していることが由来。韓国メディアでは「青」と略されることがあるほか、米国のホワイトハウスになぞらえて「ブルーハウス」と呼ばれることもある。
青瓦台はソウル北部の北岳山(プガクサン)のふもと、朝鮮王朝時代の王宮、景福宮(キョンボックン)の北側にある。日本統治時代に朝鮮総督府の官邸があった場所だ。1948年に韓国政府が樹立され、初代の李承晩(イ・スンマン)大統領が大統領府としての利用を始めた。当時の名称は景武台(キョンムデ、けいぶだい)で、「青瓦台」になったのは第4代・尹潽善(ユン・ボソン)政権下の1960年だった。
観覧には原則として予約が必要だが、65歳以上の人や外国人は1日2回、500人ずつ予約なしの観覧も受け付ける。記者が現地を訪れた8月20日、9時の入場開始の30分ほど前から多くの人が列を作ったが、英語や日本語を話す外国人の姿は見当たらなかった。まだまだ外国人観光客にとっては「穴場」だと言えそうだ。
敷地面積は約25ヘクタール。東京ドーム5個分、万博記念公園よりも少し狭いぐらいの大きさで、大規模な公園を散策するような感覚だ。現時点では執務室などがある本館、大統領と家族の自宅にあたる官邸(公邸)、迎賓館など9つの建物や施設が公開されている。
青々とした芝生の向こうに本館が視界に入る
メインゲートから敷地に入ると、青々とした芝生の向こうに本館が視界に入る。本館の完成は1991年。ロビーの階段はテレビ演説が行われた場所としても知られ、執務室に並ぶ記念撮影のスポットだ。外国首脳との共同記者会見が行われた「仁王室」や、ファーストレディーの執務室「無窮花(ムグンファ=韓国の国花のムクゲ)室」も公開されている。
記者会見場も公開
本館から坂を登ると、官邸にたどり着く。建物の中に入ることはできないが、周りを1周でき、窓から食堂や専用美容室の様子を見ることができる。
敷地内の山道を登ると、ソウル市有形文化財の五雲亭(オウンジョン)や、「宝物」に指定されている慶州方形台座石造如来座像にたどりつく。ソウル市民の大半は夏の屋外でもマスクを着用しているが、山道はそれなりに急勾配もあり、「マスクなし」の山登りを楽しむ人が多かった。1968年には北朝鮮のゲリラによる襲撃未遂事件が起き、青瓦台の背後にある北岳山が銃撃戦の現場になった。山道から見える鉄条網や監視ポストは、当時から続く緊張感を物語っている。
記者会見場も公開されている。会見場があるのは「春秋館」という建物で、本館や文在寅(ムン・ジェイン)前大統領が執務した事務棟の「與民館」からは遠く離れている。敷地内を歩いてみることで、青瓦台駐在記者の取材の難しさに思いをはせるのも一興だ。
案内パネルは韓国語のみの説明で、英語や日本語の表示はないため、翻訳アプリを活用するといった工夫が必要だ。
1日あたり2万人以上が訪れる
公開開始から3か月強が経ち、青瓦台はソウルの代表的な観光地として定着した感もある。青瓦台を管理する文化財庁が与党「国民の力」の金承洙(キム・スンス)議員に提出した資料の内容を韓国メディアが報じている。それによると、一般公開が始まった5月10日から7月27日まで78日間の累計来場者数は139万6859人。定休日(火曜日)を除くと、1日あたり2万1490人だ。外国人は、5月はゼロだったが、6月は1787人、7月は3268人いた。
ソウルの代表的な観光スポットのひとつでもある景福宮の21年の年間来場者は約108万人で、それを大きく上回る水準だ。
6月22日から26日にかけて来場者1000人に対して行った満足度調査では、89.1%が満足し、87.5%が他の人に青瓦台観覧を勧めたいと回答したという。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)