銃撃を受けて死去した安倍晋三元首相に対して世界各国から弔意が寄せられるなか、多くの指導者や著名人とは違った角度で安倍氏の功績をたたえているのが、ビル・ゲイツ氏(66)だ。
米マイクロソフト創業者として知られるが、今は慈善活動家として活動している。元妻のメリンダさんと2000年に立ち上げた「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」は、「世界中の貧困、病気、不公正と戦う非営利団体」をうたう。ゲイツ氏が公式ブログに22年8月9日付で公開した追悼メッセージでは、安倍氏が保健分野で行った国際貢献について紹介。「その死は悲劇的な損失だが、安倍氏が築いたグローバルヘルスで日本が果たす主導的な役割は今後も続くだろう」とつづった。
「エイズ、結核、マラリアの撲滅を訴え、その活動に対する日本の資金を増やした」
ゲイツ氏は15年の講演で
「もし1000万人以上の人々が次の数十年で亡くなるような事態があるとすれば、戦争よりもむしろ、感染性の高いウイルスが原因の可能性が高い。ミサイルではなく病原菌だ」
などと話し、これがコロナ禍を予言していたと話題になった。コロナ禍突入後は、途上国のワクチンや経口治療薬調達の支援を続けている。
ブログによると、ゲイツ氏は安倍氏と数回にわたって面会。その多くが、首相在任中の15年だ。安倍氏がコンピューター産業から生まれたイノベーションの育成に意欲を示していたことを紹介した上で、グローバルヘルスの分野での取り組みを
「しかし、何よりも、日本が世界の健康増進と人命救助のために主導的な役割を担っていることへの認識を共有していた。安倍氏は、中低所得国の努力を支援する頼もしい推進者だった。安倍氏は、日本がこの分野で達成してきたことを誇りに思い、日本がリーダーシップを発揮してきた歴史を継続させることができると確信していた」
と評価した。
特に「世界がグローバルヘルスに注目するように働きかけ、日本は救命活動への幅広い支援を強化することで模範を示した」事例として挙げたのが16年の伊勢志摩サミットで、
「安倍氏は健康が世界のアジェンダ(議題)に留まるようにし、世界のリーダーを説得してエイズ、結核、マラリアの撲滅を訴え、その活動に対する日本の資金を増やした」
と指摘した。首相在任時の功績について
「世界中の子どもたちが定期的にワクチンを受けられるようにするための支援を倍増させた。また、ポリオの撲滅を強く提唱した。また、安倍氏のリーダーシップのもと、日本はパンデミックを防ぐためのワクチン開発の世界的な取り組みの立ち上げを支援し、その最大の援助国になった」
などと説明した。
岸田文雄首相・林芳正外相と電話会談、日本の貢献に謝意伝える
ゲイツ氏は、安倍氏退陣後も日本政府の取り組みが続いていることを評価している。例えば21年12月に岸田文雄首相、22年6月に林芳正外相と電話会談し、途上国に新型コロナワクチンを供給する「COVAX(コバックス)ファシリティー」をはじめとする国際的枠組みに対する日本の貢献について謝意を伝え、日本の今後の取り組みに対する期待を表明している。
政府は22年5月、保健分野の日本の国際貢献のあり方を示した「グローバルヘルス戦略」を取りまとめた。ゲイツ氏は、戦略が「パンデミックの予防と世界の保健システムの改善に向けた大きな一歩」だと評価。23年に開かれるG7広島サミットでもグローバルヘルスを議題にして「世界の最貧国で、さらに多くの命を救うための基盤となる具体的なステップ」を提案するように求めた。
その上で安倍氏の功績を次のようにたたえた。
「安倍晋三氏は、健康を改善することが正しいだけでなく、世界をより安全で豊かなものにすることを理解していた。その死は悲劇的な損失だが、安倍氏が築いたグローバルヘルスで日本が果たす主導的な役割は今後も続くだろう」
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)