絵を描くAI「Midjourney」なぜ人気? 「画家を駆逐するリアリティ実感」...識者が考える「人間への問い」

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   もう人間が絵を描かなくていいんじゃないか――。AI画像生成サービス「Midjourney」が、完成度の高い絵を作り出すとして2022年7月末からSNS上で話題になっている。このサービスに対し、多くのユーザーが感嘆の声を上げているが、一部のユーザーは仕事を奪われるのではないかと危機感を露わにしている。

   以前からAI画像生成サービスは存在していた。しかし、なぜ特にMidjourneyが話題になったのか。今後、こうしたサービスはクリエイターから仕事を奪う存在になるのか。人工知能美学芸術研究会(以下、AI美芸研)の中ザワヒデキ氏と草刈ミカ氏に詳しく話を聞いた。

  • Midjourneyで生成した絵(「廃墟」をテーマにした)
    Midjourneyで生成した絵(「廃墟」をテーマにした)
  • Midjourneyで生成した絵(「犬」をテーマにした)
    Midjourneyで生成した絵(「犬」をテーマにした)
  • Midjourneyで生成した絵(「廃墟」をテーマにした)
    Midjourneyで生成した絵(「廃墟」をテーマにした)
  • Midjourneyで生成した絵(「廃墟」をテーマにした)
  • Midjourneyで生成した絵(「犬」をテーマにした)
  • Midjourneyで生成した絵(「廃墟」をテーマにした)

「ちょっとした挿絵くらいならAIで十分な時代がきた」

   Midjourneyは、ユーザーが入力したテキストを元に、AI(人工知能)が内容に沿った画像を生成するサービスだ。チャットアプリ「Discord」内で提供されており、8月9日時点ではβ版が公開されている。無料で約25回まで使えるが、より多くの画像を生成したり、商用利用したりする場合には、月額10ドルまたは30ドルのプランに加入する必要がある。

   広く話題となった1つのきっかけは、ツイッター上で7月30日に投稿された1枚の画像だと思われる。この画像では、黄色い花が一面に広がっている場所に佇む女性の後ろ姿が繊細なタッチで描かれている。投稿者は「コンセプトアート系はそうとうヤバい気がする」と危機感を述べた。

   8月9日までに、多くのユーザーがサービスを利用した画像をSNS上に投稿しており、連日話題になっている。入力したテキストの内容に沿った完成度の高い絵を作り出すとして「ちょっとした挿絵くらいならAIで十分な時代がきた」といった感嘆の声が相次いでいる。

   しかし、一部のユーザーは「廃墟イラスト完全に勝てない 廃業です」「AIに仕事を奪われる」などと危機感を露わにしている。実際、このサービスを利用して書いた漫画なども既に投稿されており、「この手法でぜんぜん作品作れそうな感じする」といった感想が寄せられていた。

   これまでMidjourney以外にも「GPT-3」や「DALL-E2」、「Craiyon」などのAI画像生成サービスは存在していた。しかしなぜ特にMidjourneyが話題となっているのか。こうしたサービスがクリエイターから仕事を奪う可能性はあるのか。

Midjourneyが話題となった理由は?画像の特徴は一体何か?

   AI美芸研の中ザワ氏と草刈氏は9日、J-CASTニュースの取材に対し、Midjourneyが他のサービスに比べて特に話題になった理由を2点指摘した。それは(1)リアル・ファンタジー方向の絵は、構成や色価の処理も含めて巧い(2)今の時代の鑑賞のツボを得ている――ことだという。

   Midjourneyは、前提としてAIが100%生成した絵で誰でも使える道具である。この条件に上記の2点が加わることで「『AIが巧くなって人間の画家を駆逐する』というリアリティが視覚的に実感できた」ため、今回大きな話題になったのではないかと考えを示した。

   また2人は、「今の時代の鑑賞のツボ」について次のように説明している。

「(歴史に一定の法則性を見出す)循環史観的には2020年代は、20世紀初頭から数えて4度目のシュルレアリスム期です。ロマン主義的な廃墟や夢、彼岸、神秘、ヴァーチャル世界、死後、破滅、無辺なる風景といったモチーフに人々の心が向かう時代です。ここに『巧さ』が加わるとマニエリスムという様式となり、人間離れしたAIならではの完成度の高いマニエリスムが今回実現したと見る事もできるでしょう」

   例えば、ほのぼの系や愛嬌系のテキストを今回のサービスに入力しても、生成された画像に憂いや神秘感などが現れるような特徴が生まれるのは、「シュルレアリスムやマニエリスムという基調路線によるものではないか」と2人は述べる。「マニエリスムの対極は『ヘタうま』ですが、Midjourneyは『ヘタうま』方向には向かいそうにありません」。ヘタうまとは、ヘタなものがよいという意味だ。

   さらに2人は、AI画像生成サービスが「絵画史的に大まかに捉えれば、フィレンツェ派的です」と分析。入力した言語から画像を生成するサービスはトップダウン式であるが、他方で、絵を描く行為には「画材との戯れの中からボトムアップ的に立ち現れる」方向もあるという。「絵画史ではトップダウン式は(形態に長けた)フィレンツェ派的なるもの、ボトムアップ式は(色彩に長けた)ヴェネツィア派的なるものと近しいです」と説明している。

   では、MidjourneyをはじめとしたAI画像生成サービスが、一部の職業に取って代わる可能性はあるのか。2人は「大いにあると考えます」と主張した。続けて「よく比較に出されますが、写真術の登場により一部の画家が筆を折ったようなことが、今回の自動画像生成ツールの登場により繰り返されることは必至と考えます」と述べている。

   今回のサービスに関して「コンセプトアート」と「コンセプチュアルアート」を混同して捉えている人が多かったと振り返った2人は、次のように補足説明を加え、取って代わる可能性がある理由を示した。

「『コンセプトアート』は何らかの用途があり、そのコンセプトに奉仕するためのイラストや絵のことで、『コンセプトデザイン』のことです。一方『コンセプチュアルアート』は作品のコンセプトがそれ自体作品となっているもので、他の用途への実用性はまったくない、現代芸術の王道です。両者はまったく別物です」

   実用性を基軸にしたコンセプトアートの説明を踏まえ、2人は「イラストレーターやコンセプトデザイナーなど、何らかの用途に奉仕するための技術提供という職業であれば、高い確率でMidjourney等の自動画像生成ツールに取って代わられるでしょう」としている。さらに他の芸術についても、「美術に限らず、音楽でも文学でも、『売れるための』とか『ここちよさのための』などのイラストや劇伴やコピーではAIが人間を凌駕するでしょう」とした。

   なお、実用性から離れた「芸術のための芸術」については、2人はさらに踏み込んだ見解を示した。

「唯一、コンセプチュアルな『芸術のための芸術』のみが人間最後の砦となり、Midjourneyのような現行のAIでは太刀打ちできないこととなります。というのは、現行のAIには自意識も美意識も無いため、『用途』を人間が設定しないと自分では動かないからです。しかし、AIがはるかに進化し、いつか自意識や美意識を持った暁には、AIだって『芸術のための芸術』を追求し始めるでしょう。そうなると、人間最後の砦もいつかは崩れ去るでしょう」

AI画像生成サービスが投げかけている問い

   AI画像生成サービスは人間にどのような問いを投げかけているのか。2人は「現時点では美学や芸術の概念を純化していく」と述べている。

「19世紀における写真術の登場は、『写実的に巧く描く技術は、芸術創作には必要ないのではないか』という問いを、当時の美学や芸術に投げかけました。その結果、美術は印象派から抽象絵画に至る近代絵画史を駆動し、写真機で代替できるような技術から遊離しました。
今回のAI画像生成サービスの登場も同様に、『構成や色価の処理も含めて巧く描く技術は、芸術創作には必要ないのではないか』という問いを、今日の美学や芸術に投げかけることになると考えます」

   現状のAI画像生成サービスは前述通り自意識や美意識を持たないが、「将来、自意識や美意識を持つ主体的存在としてAIが自ら美学を行い芸術を作り始め、人間の介在なしに『芸術のための芸術』を追求し始めることがあるとすれば、人間にとっての美学や芸術の概念の純化などという生やさしい事態では収まらなくなります」と、2人は指摘する。「美学や芸術、さらには人間の尊厳そのものが深甚な打撃を被るはずで、それこそが、美学や芸術に対する真の問いとなるはずです」と予測し、また、そうした考察を深めていくことが、2人が発足したAI美芸研の目的だという。

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