Midjourneyが話題となった理由は?画像の特徴は一体何か?
AI美芸研の中ザワ氏と草刈氏は9日、J-CASTニュースの取材に対し、Midjourneyが他のサービスに比べて特に話題になった理由を2点指摘した。それは(1)リアル・ファンタジー方向の絵は、構成や色価の処理も含めて巧い(2)今の時代の鑑賞のツボを得ている――ことだという。
Midjourneyは、前提としてAIが100%生成した絵で誰でも使える道具である。この条件に上記の2点が加わることで「『AIが巧くなって人間の画家を駆逐する』というリアリティが視覚的に実感できた」ため、今回大きな話題になったのではないかと考えを示した。
また2人は、「今の時代の鑑賞のツボ」について次のように説明している。
「(歴史に一定の法則性を見出す)循環史観的には2020年代は、20世紀初頭から数えて4度目のシュルレアリスム期です。ロマン主義的な廃墟や夢、彼岸、神秘、ヴァーチャル世界、死後、破滅、無辺なる風景といったモチーフに人々の心が向かう時代です。ここに『巧さ』が加わるとマニエリスムという様式となり、人間離れしたAIならではの完成度の高いマニエリスムが今回実現したと見る事もできるでしょう」
例えば、ほのぼの系や愛嬌系のテキストを今回のサービスに入力しても、生成された画像に憂いや神秘感などが現れるような特徴が生まれるのは、「シュルレアリスムやマニエリスムという基調路線によるものではないか」と2人は述べる。「マニエリスムの対極は『ヘタうま』ですが、Midjourneyは『ヘタうま』方向には向かいそうにありません」。ヘタうまとは、ヘタなものがよいという意味だ。
さらに2人は、AI画像生成サービスが「絵画史的に大まかに捉えれば、フィレンツェ派的です」と分析。入力した言語から画像を生成するサービスはトップダウン式であるが、他方で、絵を描く行為には「画材との戯れの中からボトムアップ的に立ち現れる」方向もあるという。「絵画史ではトップダウン式は(形態に長けた)フィレンツェ派的なるもの、ボトムアップ式は(色彩に長けた)ヴェネツィア派的なるものと近しいです」と説明している。
では、MidjourneyをはじめとしたAI画像生成サービスが、一部の職業に取って代わる可能性はあるのか。2人は「大いにあると考えます」と主張した。続けて「よく比較に出されますが、写真術の登場により一部の画家が筆を折ったようなことが、今回の自動画像生成ツールの登場により繰り返されることは必至と考えます」と述べている。
今回のサービスに関して「コンセプトアート」と「コンセプチュアルアート」を混同して捉えている人が多かったと振り返った2人は、次のように補足説明を加え、取って代わる可能性がある理由を示した。
「『コンセプトアート』は何らかの用途があり、そのコンセプトに奉仕するためのイラストや絵のことで、『コンセプトデザイン』のことです。一方『コンセプチュアルアート』は作品のコンセプトがそれ自体作品となっているもので、他の用途への実用性はまったくない、現代芸術の王道です。両者はまったく別物です」
実用性を基軸にしたコンセプトアートの説明を踏まえ、2人は「イラストレーターやコンセプトデザイナーなど、何らかの用途に奉仕するための技術提供という職業であれば、高い確率でMidjourney等の自動画像生成ツールに取って代わられるでしょう」としている。さらに他の芸術についても、「美術に限らず、音楽でも文学でも、『売れるための』とか『ここちよさのための』などのイラストや劇伴やコピーではAIが人間を凌駕するでしょう」とした。
なお、実用性から離れた「芸術のための芸術」については、2人はさらに踏み込んだ見解を示した。
「唯一、コンセプチュアルな『芸術のための芸術』のみが人間最後の砦となり、Midjourneyのような現行のAIでは太刀打ちできないこととなります。というのは、現行のAIには自意識も美意識も無いため、『用途』を人間が設定しないと自分では動かないからです。しかし、AIがはるかに進化し、いつか自意識や美意識を持った暁には、AIだって『芸術のための芸術』を追求し始めるでしょう。そうなると、人間最後の砦もいつかは崩れ去るでしょう」