今回で20回目となる世界最大級のコスプレイベント「世界コスプレサミット(通称コスサミ)」が2022年8月5日から7日にかけ、愛知県名古屋市で開催された。外務省、愛知県などで構成される実行委が主催しており、国内外から多くのコスプレイヤーが集った。
イベント関係者たちは、ここ10年ほどで「コスプレ」に対する印象は変化していると述べる。また新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、コスプレイヤーたちの置かれた環境にも変化が生じているという。
まるでアニメの世界!名古屋市にコスプレイヤーが集う
コスサミは、マンガやアニメ、特撮、ゲームなど日本のポップカルチャーに親しむ人々がキャラクターに扮する「コスプレ」を楽しむイベント。開催期間中は名古屋市各地でコスプレイヤーの姿が見られる。町全体がコスプレを受け入れており、商業施設や宿泊地、交通機関などにキャラクターに扮する人々が現れ、その光景はまるでアニメの世界のようだった。
特に多くのコスプレイヤーが集うのが栄駅の商業施設「オアシス21」の周辺だ。施設内の特設会場では様々な催しが開かれるほか、隣接する愛知芸術文化センター大ホールでは世界各国の代表コスプレイヤーがパフォーマンスを競う「ワールドコスプレチャンピオンシップ」が開催されている。周辺の公園ではコスプレイヤーやカメラマンによる撮影や交流が行われる。
アニメ「パリピ孔明」の主人公・諸葛孔明に扮していた男性は取材に対し、妻とその友人の付き添いで参加したと話す。イベント参加のために大阪から訪れていた。同作のヒロイン・月見英子に扮していた妻のゆうりさんは、次のように話す。
「コロナ禍前からコスプレを楽しんでいましたが、拡大後はコスプレの頻度が減りました。カメラマンさんやコスプレイヤーの友達とイベントに参加しづらくなったからです」
久々のイベント参加ともあって、楽しそうに他のコスプレイヤーやカメラマンとの交流を楽しんでいる。
コロナ禍を経た「コスプレ」の現在
アニメ「HUNTER×HUNTER」のキャラクターに扮していたコスプレイヤー3人組は、愛知、三重、静岡から訪れていた。3人ともコスプレ歴は7年を超え、コスサミには毎年同じメンバーで参加している。SNSを通じて仲良くなり、同じ作品のコスプレで集まる「併せ」を楽しんでいるそうだ。
「コスプレの頻度は少し減りました。コロナ禍が始まってすぐのころは、『併せ』が中止になることが多かったですね。それから1年間はほとんど活動ができなくなって、自宅でコスプレを楽しむ『宅コス』が中心になりました」
コスサミはコロナ禍でどのように変化したのか。老舗のコスプレイベント「コスプレ博」の広報を務め、自身も「コスプレNEWS(@cosplay_news01)」でコスプレ関連の情報発信を行うコスプレイヤー・南さんは次のように語る。
「イベント参加者の数はコロナ前ほどではないと思います。以前は芝生がすべて埋まるくらいコスプレイヤーさんでひしめき合っていました。参加者の目的は交流メイン、知り合いと会うのが一般的だと思います」
コロナ禍をコスプレ業界はどのように受け止めているのか。イベントに出店していたコスプレ用ウィッグ専門店「アシストウィッグ」の担当者はこう述べる。
「コロナ前後でコスプレイヤーの方が減った印象はありません。宅コスなどでコスプレに挑戦する方もいらっしゃいます。現在だと『呪術廻戦』などのメジャーな作品やVTuberをきっかけに参入される方が多いです。ウィッグを作るのは大変だと思いますが、インターネット上にも情報があるので取り組みやすくなったと思います。
またSNSでの交流や、コスプレができる大きなイベントが昔と比べて増えています。日本橋ストリートフェスタや池袋ハロウィン、コミックマーケットなどのコスプレも良い意味でメディアに取り上げられるようになりオタク文化が浸透した影響もあると思います」
コロナ禍でも多くのコスプレイヤーが活動を続けている。オアシス21の特設ステージでゲーム「あんさんぶるスターズ!!」のダンスパフォーマンスを披露したコスプレグループ「てんゆーす」は取材に対し、こう話した。
「コロナ前後で大人数での撮影ができる頻度は下がりましたが、ゲームの熱量に打たれ、好きな作品の新しい情報がモチベーションに繋がりました!」
「同人」の世界のコスプレが「文化」になった
多くのコスプレイヤーが精力的に活動しているが、世間の受け止めはどのようなものなのか。J-CASTニュースは7日、世界コスプレサミットの実行委員長・小栗徳丸さんに直撃した。
「約10年前はコスプレ趣味が一般的には理解しがたい趣味とされていました。コスプレは同人イベントなどクローズな場で楽しまれるものであり、コスプレイヤーさんたちの間で『コスプレがパブリックな場に出ていいのか?』と言う疑問や遠慮がありました。
しかしここ10年、大須商店街で開催してきた『コスプレパレード』が浸透してきました。以前よりもハロウィンが浸透したことからも仮装姿そのものが珍しいものではなくなり、理解しやすいものに変わりました」
そして現在、コスプレは名古屋市全体で受け入れられている。
「栄地域がコスプレのメッカ(聖地)として浸透し、現在名古屋市は『コスプレホストタウン』としてコスプレイヤーを歓迎しております。多くの企業や商店街も受け入れており、名古屋市公認コスプレ施設、コスプレサポートホテル、コスプレサポートタクシーなども増えてきました」
コロナ禍を受けてイベントを中止した2020年は、参加するコスプレイヤーのために3密を防いだ更衣室の用意が困難という課題があった。しかし名古屋市がコスプレホストタウンを宣言したことで、自宅や宿泊地からのコスプレ参加の心理的ハードルが下がった。
コスプレでの交通機関などの利用は以前から認めていたものの、街全体が大々的に宣伝したことで、コロナ禍でもコスプレイヤーが活動しやすい雰囲気になったという。
さらに今回は、11月に愛知県長久手市に「ジブリパーク」がオープンすることを受けて、世界で初めてジブリ公認のコスプレ企画を行った。愛知県の大村秀章知事は7日、オアシス21の特設ステージに「耳をすませば」の主人公の月島雫の父親・月島靖也のコスプレ姿で登場。「ジブリ」のキャラクターに扮した13組のコスプレイヤーとともに会場を盛り上げた。小栗代表は「ジブリの許可を得るために、僕たちからではなく大村県知事に交渉をお願いしました。宮崎吾朗監督も好意的に受け止めてくれたようです」と振り返る。
世間のコスプレに対するイメージを変えたのは、こうした行政の協力も大きい。外務省や愛知県はなぜ、コスプレイベントの開催を支援したのか。イベント開催前に取材した。
外務省や愛知県が「コスサミ」を支援する狙い
外務省の文化交流・海外広報課は、2006年からイベントを後援し、2009年から実行委員会に参加していると述べる。必要な場合には国際交流の活性化について助言などを行っているという。
「日本初のポップカルチャー、アニメや漫画、ゲームなどの発信を通じて、海外の若い世代に日本への関心を広めることが目的です。コスサミは国際交流の活性化に大きな貢献をしています。イベントを通じてたくさんの国々の若者の間で相互理解、文化を通じた国際交流を高めていけると考えております。
2007年からはチャンピオンシップの優勝チームに外務大臣賞を授与しており、参加チームの励みにしてもらえたら嬉しいです」
さらに外務省の担当者は、コロナ禍が落ち着いて往来が元通りになれば、将来的にはインバウンドも期待できるのではないかと話す。
企業からの期待も大きい。紅茶専門店「ロンネフェルト・ティ・サロン・名古屋」などを手掛ける、イベントのオフィシャルスポンサー・インペリアルグループ(名古屋市)の清水裕介代表は取材に対し、こう話す。
「『名古屋飛ばし』とも言われるように名古屋は通過点になりやすくイベントなども少ないです。また多くの文化の発信地が東京に偏る中で、名古屋から世界に発信できるものがあるのはとてもありがたいです。コスサミでお店にも多くの海外代表のコスプレイヤーさんが訪れてくれました」
会場では自身も「東京卍リベンジャーズ」のコスプレを楽しんでいた。
愛知県観光コンベンション局観光振興課は、今年で20周年を迎え多くの参加者を迎えるコスサミは愛知県名古屋市・栄を代表するイベントだと話す。
「今後の国際的友好関係を築く交流の場としてもらいたいと考え、実行委員会として支援しています。2019年には、40の国と地域から約30万人が集まりました。各国の代表コスプレイヤーが来日し、付随して観覧目的の多くの人々が訪れます。SNSだけでなく直接一堂に会して交流できる場所を提供できるという点でも有意義なものだと思います」
このようにコスサミは国際交流の場として期待されている。実際に海外の代表コスプレイヤーが集う「ワールドコスプレチャンピオンシップ」の参加者たちは、コスプレを通して多くの国と地域の友人ができたと話す。
一方で、オアシス21周辺で撮影や交流を楽しむコスプレイヤーたちの多くは取材に対し、ワールドコスプレチャンピオンシップを観覧したことがなく、海外のコスプレイヤーと交流することはほとんどないと話す。
こうした現状をどのように受け止めているのか、前出の小栗さんに尋ねた。
あらゆるコスプレ好きが集う場所でありたい
「コスプレにかける思いや趣味嗜好はそれぞれ違います。キャラクターに近づきたい人もいれば、撮影を楽しみたい人もいますし、コスプレを通じて友達を作りたい人、国際交流をしたい人、ステージに出たい人...どの部分に楽しみを見出すかは人それぞれで、コスプレ1つをとってもいろんな楽しみ方がります。
コスサミは多様なコスプレイヤーが集まっていろんな楽しみ方ができる場所にしたいと考えています」
小栗さんは、国際交流に意欲的でないコスプレイヤーがいることについて「課題だとは考えていない」と話す。積極的に国際交流を持ちたい人には、イベントのボランティアなど交流を持てる機会を用意しているほか、チャンピオンシップや大須コスプレパレードなど海外の参加者が多いイベントもある。今回は5、60人の学生ボランティアが名古屋市公館で海外の代表コスプレイヤーたちのおもてなしを行った。館内で縁日を再現し、お祭り気分を楽しんでもらったという。
「国内においてコスプレはまだ同人の領域に近い。コスプレ好きな人だけで集まっている方が安心だし落ち着くという人が多いです。一方で、海外のコスプレイヤーはオープンマインドな傾向はあります。それぞれ違うのが当たり前のなかで、共通の『好き』をみつけだす。そのステップはガチです。
けれども大なり小なり『共通の好き』から交流を行っていくのは万国共通なのではないでしょうか」
イベントを続けてきて20年。今回の開催を小栗さんは次のように振り返った。
「20周年である今年、メモリアルイヤーになんとか完全復活ができて良かったです。ぎりぎりなところを各所に協力してもらってようやく実現出来ました。
感無量です!やっぱりリアルイベントは楽しい。運営もみんなワクワクしています。参加者の顔を見ると楽しくなりました」
しかしまだまだ課題は残る。イベントの運営は赤字で、常に財政難が付きまとう。コロナ禍のようなパンデミックで観光業などのスポンサーが撤退してしまうこともあった。小栗さんは「5~10年かけてイベント自体が仕組みの中で育っていくようにしたい」と意気込む。
さらにコスプレに対しては今後、次のようなことに取り組んでいくと話した。
「多くのコスプレイヤーは作品が好きでその熱量をコスプレに捧げています。一人一人が版元に対して何かをするというのは現実的ではありません。コミュニティとして、こうしたファンの熱量を原作者に還元できる仕組みづくりに取り組んでいきます」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)