全国1000店舗以上を展開する外食チェーンのサイゼリヤ。安価にイタリアンを食べられることで幅広い世代から人気だが、実はSNS上では、サイゼリヤを舞台にした議論が頻繁に巻き起こっている。サイゼリヤでの「デート」はアリかナシかという議論や、商品番号を紙に書いて渡す注文方式の是非をめぐる議論などだ。
チェーンストア文化に詳しい批評家は、サイゼリヤはチェーンストアの中では珍しい「アイドル」のような愛され方をしている存在だと語る。「サイゼ論」が白熱する背景には、何があるのか。
恋愛、貧しさ、非人間性...多岐にわたるテーマ
「サイゼで喜ぶ彼女」――。2022年2月上旬、ツイッター上に投稿された一枚のイラストが注目を集めた。サイゼリヤの看板メニュー「ミラノ風ドリア」を食べて笑顔になる「彼女」を描いた、いわゆる「萌え絵」というジャンルのイラストだ。
このイラストから転じて、ツイッター上ではサイゼリヤをデートに用いることの是非についての議論に発展する。デートスポットとしてのサイゼリヤは「価格が安すぎる」という意見に対し、相手が喜んでいるならば価格の安さは問題ではない、いきなり高級店に行くのは気が引けるなどといった意見が交わされ、一大論争を巻き起こした。
お金や恋愛、結婚、子育てなど、様々なテーマで日夜議論が交わされているツイッター。中でも、サイゼリヤが絡んだテーマは特に火が付きやすい傾向にあるようで、一部では「ツイッターの火薬庫」とも称されるほどだ。
22年6月には、サイゼリヤの料理で満足する感覚は「貧しい」との持論を示したユーザーの投稿が物議を醸し、「サイゼリヤをうまいと感じて何が悪い?」「美味しいと思ってるものにケチつけて否定しまう心が一番『貧しい』」などと批判の声が相次いだ。
7月には、ある哲学者が投げかけたツイートが注目を集める。商品番号を紙に書いて店員に渡すサイゼリヤの注文形式を「ひどい」「寂しい」「非人間的」と訴えた内容だ。社会が機械的に管理されることに警鐘を鳴らす意見だったが、ツイッターユーザーからは「『接客』もタダではない」「ではどうしろと?」などと、その感覚を理解できないとする声が噴出した。
サイゼへの「愛」ゆえに...意見が対立?
なぜ、ツイッターではサイゼリヤをめぐる議論が白熱するのか。J-CASTニュースは7月27日、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の魅力を伝えた著書「ドンキにはなぜペンギンがいるのか」(集英社新書)で知られ、チェーンストア文化に詳しい1997年生まれのライター・批評家の谷頭和希さんに話を聞いた。
谷頭さんはチェーンストアとしてのサイゼリヤの特色を、次のように分析する。
「創業者の正垣泰彦さんの著書『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(日経BP社)にも出てきますが、サイゼリヤには『コーディネーション』の思想が流れています。服をコーディネートするのと同じように、利用客が自分のやりたいように料理を頼めることを重視している。学生であれば300円のパスタだけを食べてさっと出ることもできるし、社会人が『今日はちょっと飲もうかな』と思ったら、ワインを飲んで、前菜をつけて......という頼み方もできる。何より価格が安いので、結果として多くの人に門戸が開かれ、様々な楽しみ方が生まれているのではないでしょうか」
利用者はそれぞれの方法でサイゼリヤを楽しみ、それぞれに異なる思い出がある――。ツイッターは、そうした自分なりのサイゼリヤへの「解釈」を共有しあう場となっている、と谷頭さんは語る。
「人々の間で多様な『推し方』が存在していて、ツイッター上では都度、その解釈がシェアされている。ツイッターではもともとファンダム(編注:熱狂的なファン文化)コミュニティが盛んなこともあり、サイゼリヤもある意味で『アイドル』的な愛され方をしていると言えるのかもしれません。一般的なチェーンストアがここまで熱狂的に愛されるケースは、珍しいのではないでしょうか」
しかし、それぞれの「サイゼ愛」が共有される一方で、自分と異なる解釈が目に留まれば、それに対する反発心も生まれる。谷頭さんは上述の議論を見る中で「推しのアイドルが、自分と違う解釈をされたときの怒りに近いような印象」を抱いたという。特に、サイゼリヤの使い方をめぐって意見が対立した「デート論争」は「アイドルグループのメンバーの中で誰を『推す』のか、というファン同士の『勢力争い』に近い熱量を持っていた」と分析する。
サイゼリヤへの「愛」ゆえに、白熱する議論。この先も、ツイッターを賑わすことになるのだろうか――。
サイゼリヤで満足するのが「貧しい」のではなく
— リュウジ@料理のおにいさんバズレシピ (@ore825) June 20, 2022
相手が心から楽しみ、美味しいと思ってるものにケチつけて否定しまう心が一番「貧しい」