「俺が目隠しルービックキューブ日本一だ!!!!!!!!!!」
ルービックキューブの大手競技大会で国内新記録となる「18.30秒」を叩き出した出場者の動画が、ツイッターで「神業」などと注目されている。本人に話を聞いた。
「これはもう神業ですわ!!」
話題となっているのは、ツイッターユーザー・K.H.(@Ma29K)さんが冒頭の投稿文とともに2022年7月30日に披露した動画だ。ルービックキューブを揃えるまでの時間を競う「スピードキュービング」の大会の様子が映されている。
中央に映る少年のHさんは、ストップウォッチを作動させると、伏せられた黒いコップから一辺が3マスに分かれたキューブを取り出し、色のばらけた各面を入念に観察していく。
7秒ほど経過すると、額にかけていたアイマスクを振り落として目に装着。また同時に手元を隠すように不正防止の黒いボードが差し入れられる。
Hさんはそのまま指先を器用に動かして目にも止まらぬ速さでパーツを揃え、「18.30秒」時点で6面を完成させる。アイマスクを外して嬉しそうにガッツポーズを決めると、撮影者は感嘆のため息を漏らした。
出場したのは、世界で最も多くの登録者を持つとされる競技主催団体・世界キューブ協会(WCA)の認可を受けた一般社団法人スピードキュービングジャパンが、同日に東京都で開催した大会「大田BLD2022夏」。
先の動画は「3×3×3目隠し」という種目の決勝で、Hさんは同種目の日本記録を塗り替えた。
動画は約360万回再生され、投稿は2万3000件以上のリツイートや13万6000件超の「いいね」を集めた。ツイッターでは「何がどうなっているやら分からないけどすごい」「これはもう神業ですわ!!」「えぐすぎる!!!極めるってカッコいいわ!!!!」など驚く声が寄せられている。
新記録を残した心境について、Hさんは8月1日、「競技を始めた時からの大きな目標を達成できたこと、今まで格上だった相手に勝てたことが嬉しかったです」と、J-CASTニュースの取材に喜びを表した。年齢は16歳だと明かす。
わずか18秒間、何が行われていたのか
動画内の18秒では具体的にどのような作業をしていたのか。Hさんはパズルを揃える工程について、「分析」「記憶」「実行」の3段階に分かれていると説明した。
まずは分析パート。揃った状態の6面の展開図を思い浮かべて、例えば「白・緑・赤」のマスを持つパーツは1箇所のみ、「赤・青」のパーツも1箇所といった具合で、各パーツとマスには正しい座標があると考える。
これを踏まえて色の乱れたキューブに向き合い、特定パーツのマスの色を見て、揃った6面の展開図における座標を導き出す。各面の中央にある位置関係が固定された計6マスの配色を足がかりに、キューブ上で特定パーツが本来あるべき場所を探す。
そこには別のパーツが収まっているため、今度はそのパーツに対して同じ手順を施す。これを繰り返して数珠つなぎにパーツの正しい座標を分析していく。
分析結果を把握するには目印が必要だ。そこで展開図のマスにひらがなを割り振る事で、例えば特定マスやパーツの位置を「け」から「は」へ正すというように、文字列に変換していく。
一辺が3マスのキューブを揃える場合は平均で約20文字の文字列になる。文字列ができた段階では、例えば「けはえの...」のような羅列で言語的な意味は持たない。
ちなみに文字は特定の種類に限らず、「日本人はひらがなを主に使っていて、私個人はアルファベットを使っています」とHさんは補足した。
文字列は物語に変換して覚える
記憶パートでは文字列を2字ずつに分け、それを単語に変換し、覚えやすくするための物語をつくる。この記憶法はそれぞれレターペア、ストーリー法と呼ばれる。
先の例を用いると「けは・えの」と分け、「ケバブに・えのきが」などとイメージを膨らませていく。Hさんによると、上級者は文字列の一部を単語に変換しないまま短期記憶で覚えるともいう。
Hさんは「決勝で自分が作ったストーリーはあまり派手なものではない」と控えつつ、最近耳にした完成例を、「『ケバブがあり、その表面になぜかえのきが生えている。それがセリに出されたんだけど、売れるわけないよね』みたいな感じです」と紹介した。
実行パートは「パズル上の3つのパーツだけを入れ替える」手法を用いて揃えていくとし、「他のパーツを考慮しなくてもいいので意外と簡単にできます」と熟練者のおもむきを見せた。
なお目隠しの有無で解法は大きく異なってくるという。難度の違いをこのように伝える。
「通常の解法は初学者が30分~1時間で習得できるのですが、目隠しの解法はルービックキューブに慣れた人が1週間~数か月かけて習得するので、目隠しのほうが難しいと言えるでしょう」
前回は準優勝、課題を認識してタイム短縮
日本一に輝いたHさんがルービックキューブと出会ったのは、8歳のとき。当時は解説動画を見ながら「ただ揃えるのを楽しんでいました」。
12歳ごろに競技用のキューブを手に入れてスピードキュービングを始め、コロナ禍に入る直前から実力を試したいと思うようになったという。念願叶って大会に初出場したのは、まだ遠くない22年4月のこと。
神奈川県で開催された大会「みなとみらい2022」の同種目でHさんは23.04秒を記録した。準優勝だったものの、
「実力を発揮しきれませんでした。緊張は勿論のこと、競技の特性上大会で1回も揃わず、記録を残せないこともあり慎重になり過ぎたことも理由の1つです」
と振り返る。これを踏まえて今大会に向けて、タイムを縮めたコツは、「自分の課題を認識することとできるだけ多くの情報にアクセスし、検証することを重視しました」と述べる。
主な課題としたのは記憶スピードの改善だといい、自由時間をほぼ練習に充て、2~3秒縮めたとする。
今後について、現時点で明確な目標はないとする一方、「大会で改善点が見つかったのでまずそこを強化して、気が向いたら他の種目にも取り組みたいと考えています」と意気込む。大会公式サイトを見ると、5日時点で同種目の世界ランキング1位は14.51秒とされている。
反響に対しては次のように伝えた。
「正直に言うと、信じられません。しかし、ルービックキューブをやっていない方からの反応が多いことは喜ばしいことだと感じます」「今回の出来事をきっかけに1人でも多くの方がスピードキューブを始めてくださると嬉しいです」
俺が目隠しルービックキューブ
— K.H.Cuber (@Ma29K) July 30, 2022
日本一だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! pic.twitter.com/I4J8loRdxl