芥川龍之介や太宰治、中島敦といった作家の好きな作品を集めてオリジナル短編集を作る「ポケットアンソロジー」というサービスが、SNS上で「魅力的すぎる」と話題になっている。
企画した出版社・田畑書店(東京都千代田区)の社主・大槻慎二氏は2022年7月28日、J-CASTニュースの取材に対し、人気の理由について「『モノ』としての魅力、またはコレクター心をくすぐったことだと思います」と話した。
「まるで手帳のリフィルを綴じるように、個別に買い求め、そして読むことができたら」
ポケットアンソロジーとは、「ブックジャケット」という綴じ込みファイルの中に、短編小説やエッセイ、詩などの作品を複数綴じ、1冊のオリジナル短編集を作ることができる商品のことだ。
近代日本文学を中心に、2022年7月28日時点で130作品を扱う。最大約200ページまで作品を集めることができるという。価格は「ブックジャケット」が1980円、中に綴じる作品は1つあたり330円で販売されている。
話題の発端となったのは、とあるツイッターユーザーの24日の投稿だ。
紀伊國屋新宿本店に置かれているコーナーを撮影し、写真とともに紹介した。この投稿は7月29日17時までに、1万7000件以上のリツイートや4万2000件以上のいいねを集め、「魅力的すぎる」「これは素晴らしい」といった声が相次いで話題となった。
この商品はどのような経緯で開発され、販売に至ったのか。公式サイトによれば、大槻氏が次のように書いている。
「短編小説を一編ずつ、まるで手帳のリフィルを綴じるように、個別に買い求め、そして読むことができたら......それが文芸編集者としてまだ駆け出しのころから(いまからもう三十年も前のことですが)、ずっと夢想していたことでした」
当時から一部の人気作家以外は短編集の刊行が難しく、文芸誌上に単独の読み切り短編が載る機会が減っていたという。長編に代わって1冊のまとまった物語として単行本化できる「連作短編」が載る頻度は増えたが、連作ではない単独の短編小説の世界の層はどんどん薄くなったと実感していたと、大槻氏は記す。
「いま、中心は20代〜30代の女性だと見ています」
実際にポケットアンソロジーを開発した田畑書店は、2021年11月末に大阪・蔦屋書店梅田店の協力を得て、商品販売をスタートさせた。
大槻氏は22年7月28日、J-CASTニュースの取材に対し「その後、2022年3月に都内を中心に数店舗で先行販売をして、手応えを得たので、4月以降、本格的に市場に出始めたところです」と、販売の経緯について話した。
商品はどの世代に売れているのか。当初、大槻氏の想定では50代以上の年代を考えていたというが、商品を購入するファンが若い層に多いことに驚いたという。
商品の「モノ」としての魅力やコレクター心をくすぐったことが、人気の理由ではないかとの見解を示した大槻氏。そのうえで、「いま、中心は20代〜30代の女性だと見ています。それと、『文豪とアルケミスト』のファンが食いついてくれたのが大きかったと思います」とも説明した。
「文豪とアルケミスト」とは、16年からDMM GAMESで配信されているブラウザゲームで、20年4月からはアニメも放送されている。一番売れているのは太宰治だというが、「文アル」効果で徳田秋声「町の踊り場」や島田清次郎「若芽」も売れているという。
商品が取り扱う作品の今後の展開については、大槻氏は「ポケットアンソロジーと連動した文芸誌『季刊アンソロジスト』の企画に合わせて、著作権のある作家、現代の作家の短篇を増やしていくつもりです。『季刊アンソロジスト』では、書下ろしの短篇小説を掲載していこうと思っており、今後はむしろそちらが主流になると思います」と述べている。