安倍晋三元首相が殺害された銃撃事件で、山上徹也容疑者(41)が起訴された場合、どんな量刑になるのか関心を集めている。
旧統一教会への恨みを訴える山上容疑者について、「過酷な生育歴」などを考慮して減刑を求めるネット署名も始まり、様々な意見が寄せられている。計画的な犯行とみられているが、情状酌量の余地はあるのか、量刑の見通しを識者に聞いた。
署名では、「過酷な生育歴を鑑みての温情」など2点を訴え
山上容疑者は、母親がのめり込んだ旧統一教会と安倍元首相につながりがあると考え、銃を自作して教会施設で試し撃ちまでしたと報じられている。その一方で、母親が旧統一教会に多額の献金をして自己破産し、自分の人生を狂わされたと教会や母親への恨みを供述したともされている。
大手署名サイト「Change.org」では、このうち後者を重く見た「山上徹也容疑者の減刑を求める署名」が2022年7月15日ごろにスタートし、29日までに2200件以上の賛同を集めた。
署名は、検察庁長官あてになっており、主に2点を訴えている。それはまず、「過酷な生育歴を鑑みての温情」で、母親の育児放棄とも受け止められるような教会への傾倒によって、山上容疑者は金銭的にも精神的にも追い詰められていたことを挙げる。次に、それにもかかわらず、学生時代は勉強に打ち込み、社会人になっても様々な資格を取得するなどしたとして、「本人が非常に真面目、努力家であり、更生の余地のある人間である事」だとした。
ただ、この署名活動を始めたという人は、「いかなる理由でも殺人を肯定するものではありません」と自身のフェイスブックなどで断ってはいる。
この署名には、賛否様々な意見がネット上で書き込まれている。「不当に刑が重くなる懸念も同時にある」などと署名に理解する声が出る一方、起訴前の報道段階で判断するのはどうなのか、といった否定的な反応も寄せられていた。
山上容疑者については、検察側が刑事責任能力を調べるため、25日から4か月の鑑定留置に入ったと報じられている。まず山上容疑者が起訴されるのかどうかについて、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は29日、J-CASTニュースの取材にこう答えた。
「検察は無期懲役を求刑も、情状酌量され懲役20~30年の可能性も」
「検察が起訴するのは、間違いないと思います。犯行に計画性があり、銃殺という悪質な事案ですので、精神鑑定で、責任能力がないとされる心神喪失と診断することはまずないでしょう。能力に問題があれば、早めに鑑定にかけているはずで、今回は、調べが終わってからです。弁護側の出方を考えて念のために鑑定にかけたとみられ、能力が少し弱い心神耗弱と診断されても起訴されるでしょう」
裁判で検察の立証などが進み、被告になった山上容疑者に検察側からどんな求刑が行われるかについては、若狭弁護士はこう話した。
「考えられるのは、最低でも無期懲役でしょうね。ですが、最高裁の基準で、被害者が1人ですと、死刑判決は難しいと思います。裁判で、政治的なテロの色彩が出てきたとしても、それは変わらないでしょう。15年前に長崎市長が銃撃を受けて死亡したときは、政治的テロとして被害者が1人でも1審で死刑判決が出ましたが、2審、最高裁では無期懲役になりました」
ただ、旧統一教会への恨みがクローズアップされてきて、ネット上で刑を軽くするよう求める署名活動も起きるなどしていることから、判決では、求刑より軽くなる可能性があるとした。
「判決は、求刑と同じ無期懲役が一番考えられるパターンではあります。しかし、犯行の動機が情状酌量され、懲役30年の実刑判決が出るかもしれませんね。場合によっては、懲役20年の実刑もありうると思います。ただ、有期判決ですと、検察は控訴してくると思います。その場合、控訴審などで無期懲役の判決に変えられることはありうるでしょう」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)