リベラル系ネット番組を配信する「Choose Life Project(CLP)」が立憲民主党から資金提供を受けていた問題で、調査報告書が2022年7月28日公表された。
CLPの代表によれば、当時はメディアではなく「活動」と認識していたため問題に気づかなかった。約1500万円という額については「映像業界の感覚では『やりがい搾取』くらい低い⾦額」のため、開示の必要性を感じなかったという。
広告だと隠してPRする手法「ステルスマーケティング」(ステマ)に該当するとの批判には、「恥ずかしながら『ステマ』ということも知らなかった」と反省の弁を述べている。
「最初はまさか実現するとは思っていなかった」
CLPは「公共メディア」を標榜し、TBS「報道特集」の元ディレクター・佐治洋氏ら番組制作会社勤務の3人が16年に立ち上げた。
番組は、「自民党政治を問う」「『桜を見る会』疑惑。安倍前総理、どう責任をとる?」「#揺れる検察庁法改正案 とはなんだったのか?立憲主義と民主主義のために、いまできること」など、時の政権を追求するテーマが目立つ。
2022年1月に、出演経験のある小島慶子氏、津田大介氏、南彰氏、望月衣塑子氏、安田菜津紀氏の連名での告発で立憲から約1500万円の資金提供があったと発覚した。福山哲郎前幹事長の支持を得て番組制作費名目で受けとっていた。外部には公表していなかった。調査報告書によれば、立憲関係者はこれまで23人出演し、最多は福山氏の6回だった。
調査は「外部専門家」として、AERA元編集⻑の浜⽥敬⼦氏、弁護士の⾺奈⽊厳太郎氏が担当した。両者はCLPの番組に4回出演している。2月の時点で公表は1~2か月後を想定しているとしていたが、大幅に遅れた。
報告書では、経緯を次のように説明する。CLPは当初、3人の手弁当で運営され、20年3月からスポンサー探しを始めた。
佐治氏は知り合いだった福山氏に白羽の矢を立てる。「最初はまさか実現するとは思っていなかった。もともとGENAU(CLPの制作に携わる映像制作会社)が⽴憲⺠主党の広報的な業務を受託していた関係で、スタッフが⽴憲事務局に打診してくれた」(佐治氏)。
福山氏「党の SNS 対策の⼀環にもなる」
立憲以外の政党でも良かったが、佐治氏は「(与野党のテレビでの扱いの差に)強い違和感を抱いていた。⽴憲⺠主党を応援したい気持ちが1ミリもないわけではなく、⾃⺠⼀強に対抗してもらいたいとも思っていた。当時は安倍政権下で、公⽂書の改ざんなどもあり、⺠主的なものが崩壊していく中で、『このままではまずい』という危機感もあった」とヒアリングに答えている。
福山氏は「地上波から政治番組がなくなってきている」「党の SNS 対策の⼀環にもなる」との思惑から、最初の面談で「ほぼお⾦を出すことに決めた」と伝えた。経営が軌道に乗るまでの支援が決まった。
この時点では、設立した3者はCLPをメディアではなく「活動」と認識していた。"立憲マネー"流入の是非について議論はなく、「本業の番組制作などに追われていたこともあって、政党から資⾦提供を受けることの意味について、深く考えることはなかった」(共同代表の工藤剛史氏)。GENAUの中原⼤弐社長も「メディアというより課外活動なんだから、そこまでやりたいと思うならやったらいいんじゃないのと思った」と振り返っている。
資金提供の流れは、⽴憲⺠主党事務局、党顧問弁護士、GENAU、佐治氏らで練った。立憲から直接CLPには支払われず、博報堂、GENAUを経由する。
「党の SNSやインターネット対策、メディアへの出稿などは、全て博報堂を通すようになっているので、広告代理店を経由する形にして、⼀般制作費という名⽬で⽀払うことになった」(福山氏)、「当時、CLP は法⼈化しておらず、個⼈との取引は難しいため、GENAU を窓⼝にすることになった」(中原氏)。
クラファン呼びかけで「虚偽説明」
資⾦は、CLPの20年3~8⽉分の番組制作費に充てられた。4~9月までに、報酬として佐治⽒は計約300万円、ほかの設立者2人は計40万円を得た。
20年5⽉に検察庁法案を題材にした配信が反響を呼び、3氏はCLP の可能性について自信を深めた。佐治氏は一念発起して番組制作会社を辞め、7⽉にCLPを法⼈登記して社長に就任した。
視聴者からの支援も募ろうと、「公共メディア」を目指して7~9月にクラウドファンディングを始めた。4314⼈から3147万8500円集まった。佐治⽒はインタビューやツイッターで「これまで⼿弁当で運営してきた CLP ですがこの度資⾦集めのクラウドファンディングを始めます」との旨の実態と異なる説明をしていた。
佐治氏は、1500万円は「映像業界の感覚では『やりがい搾取』くらい低い⾦額で、無償で働いてもらっていた⼈もいたので、⾃分たちは基本ボランティアの感覚だった」と調査に釈明している。
さらに、継続サポート制度(1000円~3万円)と都度サポート制度をはじめ、21年12⽉末時点で1800人、22年4⽉末時点で1200人を超えている。
ネットメディアなら何でもあり?
3⽒は、⽴憲からの資金提供による番組内容への影響は否定している。福⼭⽒も、内容や出演者の⼈選に働きかけをした事実はないと明言している。出演者42人が回答したアンケートでは、「CLPに、⽴憲⺠主党に配慮するよう求められたことがあるか」との問いに「はい」と答えた人はいなかった。
「CLPが⽴憲⺠主党に配慮したコンテンツを作っていた印象をもったことがあるか」には、「はい」が1人、「その他」が8人だった。後者は「⽴⺠への配慮というよりはリベラル⾊が濃厚で、少なくとも『中道』を指向するものではないとは感じていた」「⽴憲デモクラシーそのものへの選好と理解していた」などと回答があった。
佐治氏は問題が発覚した1月、制作実態を明かしていなかった理由に、テレビや新聞などのマスメディアと違い、ネットメディアであれば「それほど厳密な放送倫理の規定が適用されるわけではなく、政党や企業や団体からの資金の提供についてマスメディアであれば抵触するであろう各種法令は適応外であろうという認識でいました」と自省していた。
ステマとの批判には「恥ずかしながら『ステマ』ということも知らなかった。そういう意味ではネットメディアで問題になっていることにも疎く、稚拙だった。知識もなく、ネットメディアとは何か考える時間もないままに⾛ってきたことが原因だと思う」と調査に答えている。
今後は、クラウドファンディング支援者には希望すれば全額返金し、活動継続については支援者と意見交換会を開き判断するという。立憲から資金提供を受けていた期間の動画は非公開になっているが、出演者から確認が取れたものは順次再公開する。