中国ネット民は、なぜ安倍氏暗殺を喜ぶのか 環球時報が披露した「エクストリーム擁護」

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   安倍晋三元首相が銃撃されて死去した事件をめぐり、中国政府は哀悼の談話を出す一方で、SNSでは事件を歓迎するかのような書き込みも相次ぐ。なぜこのようなことが起こるのか。

   中国共産党系の環球時報は7月10日、その背景を解説する論考を英語版のウェブサイトに掲載した。題して「安倍氏の死に対する中国人の反応は本物だ」。エリートや知識人が安倍氏の死去を悼んでいることを紹介する一方で、それ以外は「一般にあまり洗練されておらず、あえて愛憎を明示的に表現する」と指摘した。歴史認識をめぐる対立を背景に、罵詈(ばり)雑言を正当化するともとれる内容だ。

  • 安倍晋三元首相が銃撃された現場には献花台が設けられた。中国のSNSでは罵詈(ばり)雑言が飛び交っている(写真:三田 崇博/アフロ)
    安倍晋三元首相が銃撃された現場には献花台が設けられた。中国のSNSでは罵詈(ばり)雑言が飛び交っている(写真:三田 崇博/アフロ)
  • 安倍晋三元首相が銃撃された現場には献花台が設けられた。中国のSNSでは罵詈(ばり)雑言が飛び交っている(写真:三田 崇博/アフロ)

「中国社会の複雑な反応」は「正常であり、現実的」

   論考は、中国人民大学重陽金融研究院の王文・執行院長によるもの。冒頭、今回の事件に対する「中国社会の複雑な反応」は「正常であり、現実的」だと主張する。具体的には、「多くのネット利用者が喜び、一部の世論エリートが外部勢力に利用されないよう注意を促し、一部の人々が安倍氏の政治的功績を肯定的に評価する」状況だ。

   習近平国家主席は弔電を送り、中国外務省もお悔やみの談話を出した。これは王氏によれば「中国の文化的礼儀作法と政治的合理性」を示したもので、安倍氏の死去に対する「公式な立場を反映」したものだ。

   問題は中国国民だ。論考では、安倍氏の死去を喜ぶネット上の声を、中国人の「無礼さ」や「冷酷さ」を表すエピソードとして伝えた外国メディアを「中国人に対する誤解と偏見だ」と批判する。その根拠のひとつが、「中国世論では、多くのエリートが安倍氏の政治的功績に肯定的なコメントを寄せている」ためだ。その上で、エリートは感情を超えて合理的な判断ができると主張する。

「私見では、過剰な日本崇拝や親日感情に駆られたものではなく、合理的な根拠に基づいた意見であれば、中国社会でも理解され、受け入れられるのではないか。中国のエリートは、外国の要人の異常な死に対して、死亡したのが日本人であろうとなかろうと、感情を超えて、冷静に国際問題を分析し、総合的に評価する能力を持っている」

   SNSで拡散されたのが、儒教の経典「経書」のひとつ「礼記」(らいき)の一節「鄰有喪、舂不相。里有殯、不巷歌」(編注:「隣人に喪があるときは、米つきで歌を歌わない。村に葬儀があれば、道で歌わない」、他人の不幸を喜んではならない、の意)だ。エリートは、この一節を拡散してネット世論を批判したが、それも奏功しなかった。

「一部の知識人はネット利用者を教育しようとこれを引用し、『安倍氏は亡くなったのだから、その死に対して悲しみを表現してはどうか』と、理性的に受け止めるように求めた。しかし、これはうまくいかないようだ。多くの中国人にとって、中国の古書に描かれた状況を日本に当てはめるべきではないのだ」

「彼らは一般にあまり洗練されておらず、あえて愛憎を明示的に表現」

   その理由として第2次世界大戦や靖国神社参拝に対する安倍氏の立ち位置を挙げ、

「日本の首相、特に安倍氏は長年、日本の戦争の歴史を反省すると言いながら、一方で靖国神社に敬意を示し、米国寄りの立場をとって台湾問題に干渉してきた。これは絶対に受け入れられないし、中国国民も許せない」

などと主張。エリート以外の中国人の国民性にも触れた。

「中国の人々は、実は自分たちの感情が外の世界に注目されることを恐れていない。彼らは一般にあまり洗練されておらず、あえて愛憎を明示的に表現する」

   その上で、

「外国人が中国にひどい仕打ちをしたら、死後も中国人の寛容さは得られない」

とも主張した。この論考は次の一節で締めくくられ、安倍氏の死去を喜ぶネット環境は「中国社会の進歩」「文化的寛容さ」を反映したものだと結論づけている。

「今日の中国は、もはやそれほどとらえどころのないものではない。ほとんどすべての感情を表現する手段があり、それは中国社会の進歩を象徴している。また、中国の世論環境では、違いを受け入れることができ、これは中国式の文化的寛容さとみなすことができる」

   こういった中国の「ネット世論」は、安倍氏を追悼する中国人にも向けられる。例えば、安倍氏に2回にわたって単独インタビューしたことがある香港・フェニックステレビのリー・ミャオ東京支局長が微博(ウェイボー、Weibo)に追悼の書き込みをした。この書き込みには大量のコメントがついたが、最も注目を集めたのは、発言が「勇気がある」というもの。安倍氏を追悼するのに「勇気」が必要な空気感を反映しているとも言える。

   こうした状況には、米国のエマニュエル駐日大使も反応した。7月12日のツイートで、安倍氏への追悼の声が世界中で広がっていることを「目を見張る思い」だとした上で、次のように指摘している。

「残念ながら日本在住の中国人報道関係者の一部が、人としての思いやりを示したという理由で本国のネット民から批判されている。さらに悪いことに、彼らはこの暗殺を祝っている。中国はもっとましになれるはずだ」

(J-CASTニュース編集部 工藤博司)

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