ランダムに決まった行き先に移動できる「旅ガチャ」がブームだ。鉄道や航空など交通事業者が相次いでサービスに乗り出し、ネット上で話題を呼んでいる。
旅行業界に詳しい識者は、安価な価格設定や「ゲーム性」の高さから、旅行先を決められない若者に刺さっていると分析する。
「漂うどうでしょう感」話題の「サイコロきっぷ」
俳優の大泉洋さんや安田顕さんらの出演で知られるバラエティー番組「水曜どうでしょう」(北海道テレビ放送)。90年代に放送され、今も各地で再放送が続く人気番組だ。数ある企画の中でも特に人気なのが、サイコロの出目で旅先を決める「サイコロの旅」。出目次第では一夜にして違う地方へ飛ばされかねず、サイコロに運命を振り回される出演者の切ない姿が視聴者の心をとらえてきた。
そんな名企画を思い起こさせるような旅行商品が登場し、ネット上で話題を呼んでいる。JR西日本が2022年7月1日に発表した「サイコロきっぷ」だ。同社のZ世代(1995年以降に生まれた世代)向け情報発信プラットフォーム「アオタビ」がプロデュースした商品で、一回5000円でサイコロの出目に書かれた駅までの往復切符が手に入るというものだ。
旅の起点は大阪市内。出目は芦原温泉(福井県)、尾道(広島県)、倉敷(岡山県)、餘部(兵庫県)、東舞鶴(京都府)、白浜(和歌山県)で、ごくわずかな確率で博多(福岡県)が混じっている。移動には新幹線や特急の普通車指定席が使える。博多が出れば、通常の新幹線料金と比較して82.9%引きの切符が手に入る。発売期間は7月19日から10月29日まで。
切符が発表された後、ツイッター上では「リアルどうでしょう爆誕!」「漂うどうでしょう感」「大泉さんが頭痛を引き起こしそう」などと、水曜どうでしょうの「サイコロの旅」を思い出したという声が続出。番組に登場した「行き先ボード」を、今回のきっぷの行き先に合わせてイラスト化した人もいた。
JR西日本の発表から4日後、JR東日本が発表したサービスが「どこかにビューーン!」だ。同社のポイントサービス「JRE POINT」を用いて、東京、上野、大宮のいずれか3駅を基点に、ランダムに選ばれた駅まで新幹線で往復できるというもの。行き先は東京駅から概ね150km以上離れた駅で、最も遠い場所としては新青森(青森県)まで旅行できる。必要なポイント数は6000ポイント(6000円相当)で、開始時期は22年12月を予定する。
コロナ前にあった「ブームの下地」
「旅ガチャ」商品を販売するのは、鉄道会社だけではない。LCC(格安航空会社)大手のピーチ・アビエーションは21年8月に「旅くじ」を発売。1回5000円で買える「くじ」には、ピーチが就航する国内空港の名前がランダムに書かれ、該当する空港までの航空券購入に使えるポイント(6000円分以上)が手に入る。現在は大阪・心斎橋で販売しているが、過去には東京や札幌、福岡などでも買えた。
なぜ、「旅ガチャ」がブームになっているのか。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は22年7月8日、J-CASTニュースの取材に「どこかに出かけたいと思っているけど、どこに行ったらいいか分からないという若者に刺さっているのではないでしょうか。金額的にもお得で、遊び感覚でどこかに行けるゲーム性も魅力なのだと思います」と分析する。
ランダムに行き先を決めるサービスとしては、日本航空(JAL)が「どこかにマイル」を16年12月から実施。手持ちのJALのマイルを利用して、割安で国内の空港に移動できるというもので、サービス開始当初には旅行好きの間で話題を集めた。
インバウンド需要などで盛況だった旅行業界では、コロナ禍により需要が激減した。鳥海氏は、コロナ前の「どこかでマイル」のヒットが下地にあった中、今回の交通各社の「旅ガチャ」商品の発売には、コロナ禍で旅行を敬遠していた人に旅行の再開を促す意図が込められているのではないかと分析する。
鳥海氏は「旅行はしたいけど、予算が限られているという人の間で、引き続き人気が出るのではないか」と、業界内でのさらなる「旅ガチャ」商品の拡充に期待を示した。