安倍晋三元首相と関係があると銃撃犯の山上徹也容疑者(41)が思い込んだ特定の宗教団体について、「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)と一部週刊誌に報じられ、同連合が2022年7月11日に会見して釈明に追われた。
山上容疑者は、母親が多額の献金をして破産したことを供述したと報じられているが、同連合は、破産した事情は把握していないものの、批判を受けた献金は見直したと強調した。統一教会の問題を追及してきた紀藤正樹弁護士に話を聞いた。
山上容疑者の母親は、20年前に破産したが、「事情は分からず調査中」
山上容疑者が恨みに思ったという宗教団体について、大手新聞や民放キー局などは、会見前までは名前を伏せて報じてきた。
その報道によると、山上容疑者は、具体的な団体名を挙げたうえで、「母親が信者で、多額の献金をして破産した。絶対成敗しないといけないと恨んでいた」などと供述したという。
一方、7月9日ごろから一部週刊誌が団体名を「世界平和統一家庭連合」と報じ、ネット上では、この団体について関心が高まっていた。
なお、奈良県警の広報担当者は11日、J-CASTニュースの取材に対し、宗教団体の名前は発表していないと答えており、週刊誌は、独自の取材で団体名を特定したとみられる。団体のコメントを載せた大手新聞もあったが、名前は伏せられていた。
そして、11日になって、世界平和統一家庭連合が会見を開き、同連合の田中富広会長は、「一部メディアで実名報道され、宗教法人として公式見解を述べる必要があると感じた」と明かした。
田中会長の説明によると、山上容疑者の母親は、1998年ごろに入会し、2009年まで熱心に活動した。その間の02年ごろに、母親が破産したが、高額献金は記録になく、古い話のため、当時の状況は把握できておらず調査中だという。
母親は、09~17年は活動していなかったが、2、3年前に親しい会員に誘われ、ここ半年は、毎週ではないものの、月に一度イベントに参加するようになっているという。
「09年にコンプライアンスを強化し、それ以降はトラブルがない」
山上容疑者が関係あると思い込んだ安倍氏については、同連合の田中会長は会見で、会員や顧問にはなっておらず、協力を求めたこともないと直接の関係を否定した。
ただ、安倍氏は、同連合と友好関係にある「天宙平和連合(UPF)」の世界平和運動のイベントには、賛意を表明し、21年9月にはUPFにビデオメッセージを送ったと日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が報じている。
田中会長は、この点についても認めたが、「教会への恨みから安倍さんの殺害まで、とても大きな距離があって、その理解に少し困惑しています」と明かした。
旧統一教会を巡っては、霊感商法などが社会問題化していたが、田中会長は、献金を巡るトラブルが多発したため、09年にコンプライアンスを強化し、それ以降はトラブルがないと説明した。「教会には、様々な企画がありますが、多くの行事で献金要請されることはありません」ともした。
10分の1を献金すると聖書でうたわれた、いわゆる「11条献金」は意識しているという。ただ、合同結婚式などに感謝する献金については、信者自身の意志で行われるとした。
母親の献金問題については、警察が捜査中なので説明するのは避けたいとしたが、「犯行動機の根源にあったとしたら、とても重く受け止めないといけない」と話した。
宗教関連の著書が複数あり、今回の問題についても発言している紀藤正樹弁護士は7月11日、同連合の献金についての説明に対し、こんな見方を取材に示した。
紀藤正樹弁護士「何があったのか第3者委員会を設置して検証すべき」
「宗教法人として、やるべきことをやっておらず、何があったのか第3者委員会を設置して検証すべきです」
紀藤弁護士によると、献金と霊感商法は財布が違うという。
「財布は、実は3つあります。日本の法人に入る献金、韓国の本部に入る献金、日本の霊感商法で得た代金です。これらで、いくら山上容疑者の母からお金を受け取ったか、会見で何も話していないので、信用性がありません。きちんと調べて公開すべきことだと思いますね」
山上容疑者に対しては、「いくら私怨であったとしても、選挙の結果に作用しています。民主主義の破壊であり、やったことは酷いと思います」として、重い犯罪との見方を示した。
(J-CASTニュース編集部 野口博之)