男性社員たちが育休中に転職活動をし、育休明けに次々と退社している――。2022年6月下旬、ツイッター上でこんな投稿が話題を集めた。
幼い子供を養育するために設けられている育児休業制度。育休明けの退職を見越した転職活動は「制度の濫用」ではないかとする指摘がある一方、「サラリーマンの生存戦略としては正しい」という声も聞かれる。法的に問題はないのか。弁護士に話を聞いた。
「転職を考えさせてしまう会社自体が...」
育児休業は育児・介護休業法第2条に基づく労働者の権利。子どもが1歳になるまでの連続した期間の休業を保障している。21年6月の育児・介護休業法改正により、22年10月からは従来の育児休業と別に、男性が子の出生後8週間以内に4週間まで休みをとれる「産後パパ育休」制度がはじまる。
女性に比べて育休取得率が低かった男性。法改正により、男性の育休取得へのハードルが下がることが予想される。しかし、中には育休制度を用いて、男性が自らのキャリアアップなどを図ろうとするケースも出ているようだ。
22年6月下旬、会社の男性社員が育休中に転職活動をし、育休明けに一度も出社せずに退職しているケースが多発している、とのツイートが話題を呼んだ。投稿に対しては「うちと同じだ」「うちは少しだけ出社して辞めていく人が(いた)」などと、同様のケースが身近にあったという報告もみられた。
育休明けの退職を見越した育休中の転職活動については「完全な抜け穴」「制度の悪用」「育休制度(の維持)が難しくなりそう」と問題視する声が聞かれた一方で、「サラリーマンの生存戦略としては正しい」「転職を考えさせてしまう会社自体が問題なんじゃ」などの指摘も。育休中や、育休経験者だとするユーザーからは「すごく分かる」「初めて仕事のことを冷静に考えた結果かも」と、理解を示す意見もあった。
弁護士の見解は...
弁護士法人・天音総合法律事務所の正木絢生代表弁護士は22年7月7日、J-CASTニュースの取材に、社員が育児休業中に転職活動を行い、育休後に退社することで生じうるトラブルについて、こう見解を示す。
「育児・介護休業法3条2項では、育休を取得した社員は、その休業後における就業を円滑に行うことができるよう必要な努力をするようにしなければならないと規定されています。つまり、法が想定しているのは、休業明けに同じ職場に復職するということです。他方で、同法22条2項では、会社も育休後における就業が円滑に行われるようにするため、会社における労働者の配置その他の雇用管理、育児休業をしている労働者の職業能力の開発及び向上等に関して、必要な措置を講ずるよう努めなければならないと規定されています」
「つまり、当該社員が会社と育児休業後の就業意向についての意思疎通を行わないまま転職してしまいますと、復職後を見越した人員配置等を行っていたにもかかわらず、その変更を余儀なくされてしまい、会社の業務等に影響を及ぼす可能性があります」
では、育休中に転職活動を行うこと自体は、法的に問題になるのか。
「育児休業は、子供を養育するために取るもので、転職活動の目的は、通常養育環境を改善することにありますので、育休中に転職活動を行うこと自体は、育児・介護休業法の趣旨に反するものではありません。また、育休明けに転職することについても、社員には憲法22条1項の保障する職業選択の自由がありますので、法的に問題はありません」
正木弁護士は「育児・介護休業法は社員に対しても会社に対しても努力義務を課しているにすぎない」とする。前述のようなトラブルを回避するためには、「例えば当該社員があらかじめ会社に対して転職の意向を示すことで意思疎通が取れていれば、仕事の引継ぎに関するトラブルを未然に防ぐことができます」とし、会社側との事前のコミュニケーションが重要だとの見解を示した。
では、育休中の転職をめぐっては、どういったケースであれば法的問題に発展する可能性があるのだろうか。
「会社が育休中の転職活動を理由に解雇すること等の不利益の取り扱いを行った場合には、育児・介護休業法10条に抵触し、法的問題に発展する可能性があります」