ANA(全日空)グループの3社長が2022年7月7日、東京・東新橋のANA本社でそろって記者会見し、コロナ禍からの需要回復の見通しについて説明した。国内線は、ほぼ「コロナ前」の水準に戻ったが、首都圏を中心に感染者が再び急増し、「第7波」突入が鮮明になった。ただ、コロナ禍に突入してからの2年半で感染対策のノウハウが蓄積されたとして、感染者増加で需要が減少するという「単純な構図にはならないのではないか」との見方を示した。
国際線の需要は回復途上で、引き続き水際対策の緩和を求める考え。ビザ取得の煩雑さが障壁のひとつで、これが原因で「日本パッシング」が起き、ビジネス上の機会損失が起きていると訴えた。
「昨年よりもさらに安全に移動ができますよ」という「ファクト」をアピール
ANAホールディングス(HD)の芝田浩二社長によると、7月には「単月で黒字を達成する見込み」で、22年度は「確実に黒字を達成していく」とした。堅調なのは国内線で7~8月はANAブランドと格安航空会社(LCC)の「ピーチ」ブランドを合わせて、「コロナ前」の9割にまで需要が回復。7月16~18日の3連休に限れば、コロナ前と同水準だ。
足元の感染者増が与える影響については、ANAの井上慎一社長は
「この2年半で感染対策の取り組みが深く、広くなっていると理解している。感染対策が強化されているというこの環境を、例えば『昨年よりもさらに安全に移動ができますよ』ということが言える状況になっていると思うので、そういったファクトを正しくお客様にお伝えして『こうすれば安全に移動ができます、旅行ができます』ということをアピールしていきたい」
などと説明。影響は限定的だとの見方を示した。
「これまで通り、感染者数が増えたから...(需要が減る)という単純な構図にはならないのではないか」
「ピーチ」を運航するピーチ・アビエーションの森健明CEOも、仮に感染者数が増えたとしても
「例えば移動の自由だとか、いくつか感染対策を徹底することによって、『そのままでもいいよ』ということは山ほどあると思っている」
と指摘。
「従って、この感染者数だけに...(一喜一憂する)ということではなく、今後、政府や自治体がどういう判断をされるのかに注目していきたい」
とした。実施の先送りが指摘される観光支援策「全国旅行支援」については、
「(前身のGoToトラベル事業が行われていた)20年度の実績を振り返ると、我々の観光を含めた、業界にとっては大きな後押しになった。こういう期待感はあるので、是非早期に実現できるのかいいのかな、と期待している」(芝田氏)
などと期待感を示した。
ビザ取得に時間がかかるので「だったら日本は後回しにして、他に行こう」
国際線については、水際対策の緩和を求める声が相次いだ。芝田氏は、7~8月の業績は上振れを予想しているとする一方で、
「海外のお客様からは『日本に行きたいがビザの取得が非常に煩雑だ』という声や、『団体ツアーではなくて個人旅行でも是非行きたい』、こういう声を遠くいただいている。是非入国規制をG7と同じレベルまで緩和していただきたいというお願いは、引き続きしていきたい」
などと述べた。井上氏は、需要回復の障害として、(1)ビザが必要になっている(2)日本に向けて出発する際のPCR検査(3)個人旅行が解禁されていない、という3点を指摘。特に(1)は、ビジネス上の機会損失が生まれていることを指摘した。井上氏によると、4月以降はビジネスパートナーとオフラインでコミュニケーションする機会が増えているが、そんな中で「日本パッシング」が起きていると説明した。
「今何が起きているかというと、日本パッシングだ。ビザを取るためには、日本大使館や領事館にパスポートを預けるが、その時間が、まどろっこしいぐらいに世界の経済が動いている。だったら日本は後回しにして、他に行こう、こういうムーブメントが起きている。これは日々実感することだ」
(3)についても、コロナ前のインバウンド需要の8割は個人観光客が支えていたとして、個人客が解禁されない以上「なかなか上振れしない」とした。
ANA HDも加盟する日本経済団体連合会(経団連)など9団体は6月10日、日本政府に対して水際対策緩和を求める声明を出している。「G7諸国並みの入国管理」の具体的内容として、「個人の訪日観光客受入れの早期再開」「出国前検査において、より負担の少ない検査方法の利用やさまざまな形式の検査証明書での結果の提出を有効な要件として認める」「すべての国・地域からの帰国者・入国者について、検疫所による入国時検査を撤廃」など5項目を挙げている。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)