尼崎市のUSB紛失したのは「再々委託業者」 「コスト高」の指摘あるのに、なぜこんなことが起こるのか

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   兵庫県尼崎市の市民約46万人の個人情報が入ったUSBメモリーが一時紛失した問題で、市が業務委託した情報サービス会社「BIPROGY(ビプロジー、旧・日本ユニシス)」が、USBを持ち出したのは再委託した会社の社員との説明を訂正し、この会社が再々委託した会社の社員だったと発表した。

   報道によると、市はBIPROGYの再委託などは知らなかったというが、ネット上では、こうした委託方法は、セキュリティ面で懸念があるほか、そもそもコスト高の受注が招いたのではないかと疑問や批判が相次いでいる。最近は、こうした「多層契約」の問題を指摘されることが増え、国の公正取引委員会も、作業をせず利益を得る「中抜き」への対応強化を発表したが、なぜこんなことが行われているのだろうか。

  • USB紛失で再委託の問題が浮上(写真はイメージ)
    USB紛失で再委託の問題が浮上(写真はイメージ)
  • USB紛失で再委託の問題が浮上(写真はイメージ)

市は、再委託などは知らなかったと説明したが...

   この問題では当初、BIPROGY関西支社が、別の会社「アイフロント」に業務の一部を再委託し、この会社の40代男性社員がUSBにデータをコピーして持ち出し、居酒屋で飲んだ後に路上で寝てしまって一時紛失したとされた。

   ところが、BIPROGYは2022年6月26日、公式サイト上の発表でこの情報を訂正し、アイフロントがさらに別の会社に再々委託していたことを明らかにした。

   このことが報じられると、ツイッター上などでは、「業務の質が低下する」「こんなんで個人情報守れるかよ」とセキュリティ面への批判が出ると同時に、こんな理由で公表事業がコスト高になっているのではないかとの声が次々に上がった。「これって、中抜きだよね」「丸投げの丸投げ」「委託先の委託を禁止にしろ」などの意見が出ている。

   報道によると、尼崎市は、再委託などは知らなかったとして、稲村和美市長は、契約違反による損害賠償も検討していることを明らかにした。

   個人情報を扱う再委託については、総務省が出している「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」22年3月版によると、「原則禁止」になっている。それは、「一般的に、再委託した場合、再委託事業者のセキュリティレベルは下がることが懸念されるため」だ。そして、「例外的に再委託を認める場合には、再委託事業者における情報セキュリティ対策が、他の委託事業者と同等の水準であることを確認し、委託事業者に担保させた上で許可しなければならない」と定められている。

「能力のレベルを考えて、適正な受注額だった」

   尼崎市は、委託業者のBIPROGYが再委託などしたことを知らなかったとはいえ、業者が自ら業務をしていることを結果的に確認できなかった。

   この点について、総務省のデジタル基盤推進室は6月27日、J-CASTニュースの取材に対し、「市の事情を聴いていませんので詳細は分かりませんが、委託業者が業務をしていることをきちんと確認しなかったのは、ずさんだったのではないかと考えています」と話した。

   コスト高になるとも言われる再委託などについて、総務省の行政課では、「地方自治法上では、制限するような規定は特にありません」と取材に答えた。同省の行政経営支援室でも、「コスト面からの規制は、特段設けていません」と説明した。

   なぜ再委託や再々委託までしたのかについて、BIPROGYの広報部は27日、「市への説明の有無なども含めて、複数人からヒアリングして事実関係を確認しているところです」と取材に話した。なぜ再々委託について当初は認めなかったのかについては、「隠していたわけではありません。ヒアリングで確認がまずかったところがありました」と説明した。

   尼崎市の行政法務部長は27日、なぜBIPROGYが再委託したかについて、「そこまで事情を聴けておらず、把握していません」と取材に述べた。BIPROGYが自ら業務をしていないことを確認できなかった点については、こう釈明した。

「まず再委託したとは報告を受けておらず、BIPROGYの社員と聞いていましたので疑いを持ちませんでした。ずさんではなかったと考えていますが、業務全体の最終責任は市にあると思っています」

   受注額をもっと安くできなかったのかについては、「安くできたかは分かりませんが、能力のレベルを考えて、適正な額だったと考えています」と話した。

「専門性が高い業務などで多いが、一部で丸投げの可能性もある」

   なぜ業者が再委託などをするのかについて、主な情報サービス会社でつくる情報サービス産業協会(JISA)の担当部長は29日、取材に対して次のように話した。

「技術的に専門性が高い分野で再委託先などの会社にしかないものを調達するときや、スタッフ数十人を手配しなければならないなど量的に必要なときに、複数の会社に再委託、再々委託として手配することがあります。ただ、元請けの事業者が全体の管理・監督をしないといけませんので、責任を持ってできない可能性があるとして、最近は、多層契約を行わないようになってきていますね。下請けは、1次、2次までと、再委託の制限をかけるところも多くなっています」

   業者が中抜きなどをする目的もありうるのかについては、「一部で丸投げするようなところが残っているかもしれませんが、しっかりした事業者は、1次、2次まで委託に制限をかけていると思います」と答えた。

   今回の再委託などについては、次のように指摘した。

「詳細がまだ分からないこともあり、即問題だとは思っていません。個々の契約をきちんと履行しているのか、行政も契約内容を確認してやっているのか、がポイントになると思います。発注、受注者の責任を明確にしないといけないでしょう。特に、行政の仕事では、委託業者が再委託するときは、行政に確認して了承を得ることが契約にうたわれているはずです。それも、業者が丸投げして外部委託するのではなく、再委託は50%までなど業務に制限をかけていることがほとんどだと思います。業務内容を契約通りやっていなければ、是正する必要がありますね」

   なお、公正取引委員会は29日、ソフト会社2万社強にアンケートした結果をまとめた「ソフトウェア業の下請取引等に関する実態調査報告書」を発表し、不必要な「中抜き」による下請けへのしわ寄せ行為に対し、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)などでの摘発を強化することを明らかにした。

   アンケートによると、調査対象になった企業全体の26%が「中抜き事業者の存在を感じたことがある」と回答していた。公取では、契約内容の明確化や「多重下請け構造」が指摘される供給網のスリム化を各社に呼びかけている。

(J-CASTニュース編集部 野口博之)

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