キックボクシングの那須川天心(23)がプロボクシングに転向する。
那須川は2022年6月19日に東京ドームで行われた格闘技イベント「THE MATCH 2022」に出場し、K-1王者・武尊(30)を5-0の判定で下した。「世紀の一戦」と謳われたリングでK-1王者からダウンを奪いキックボクシング無敗の42連勝をマーク。完勝で有終の美を飾った「神童」がプロボクシングで世界の頂点を目指す。
「サウスポーが右に対して合わせる典型的なカウンターだった」
キックボクシングで完璧なレコードを残してプロボクシングの世界に挑戦する那須川。所属するジムは現時点で決定しておらず、階級やプロデビュー戦などに関しても未定だが「神童」のプロボクシング転向に早くも大きな注目が集まっている。
果たしてプロボクシングの世界で頂点に立つことが出来るのか。「モンスター」井上尚弥(大橋、29)とのドリームマッチは実現するのか。J-CASTニュース編集部は協栄ジムの金平桂一郎会長(56)に那須川のプロボクサーとしての資質や可能性、そして今後の展望を占ってもらった。
これまで那須川の試合を何度も見てきたという金平会長は、キックボクシング最後の試合となった武尊戦を次のように振り返った。
「左のカウンターでダウンを取りましたが非常にうまい。ボクサーが打つようなパンチでした。サウスポーが右に対して合わせる典型的なカウンターだった。最後のラウンドはパンチでの打ち合いを武尊選手とやっていたが、避けカンも良ければ当てカンもいい。将来が楽しみな選手であることが分かった試合だったと思います」
武尊戦は58キロの契約体重で行われ、当日計量はTシャツ、ハーフパンツ着用の状態で臨み61.95キロでクリアした。金平会長は那須川のパワー、体格面から見てプロボクシングではバンタム級(53.52キロ)もしくはスーパーバンタム級(55.34キロ)が適性階級であると指摘した。
「キックで大きな舞台を踏んでいるのは大きい」
バンタム級は現在、井上がWBA、WBC、IBFの3つのベルトを保持しており、年内にも4つめのWBO王座を狙っている。スーパーバンタム級は、WBA、IBF王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)、WBC、WBO王者ステファン・フルトン(米国)の2王者が君臨している。
那須川は年内にもプロテストを受けるとみられるが、プロボクシングではどの程度の実力なのか。金平会長は「現時点で日本ランカークラスの実力はあると思います。ただ今すぐに日本チャンピオンに挑戦してベルトを獲得出来るかといえばそれは分かりません」と私見を述べた。
金平会長が未知数であると指摘するのが、長いラウンドをこなす体力と精神的スタミナだ。タイトル戦となれば10ラウンド、12ラウンドを戦わなくてはならず、リング上で長時間の集中力が求められる。リング上での集中力がひとつの課題であるとした。
一方で金平会長はキックボクシングのキャリアがプロボクシングのリングで活きてくると指摘。タイではムエタイ選手がボクシング転向後すぐに世界王座を獲得していることを例に挙げ、那須川の可能性に言及した。
「ボクシングのキャリアはないが戦うという意味ではキックで数をこなしている。経験値が高い。タイのムエタイ出身のボクサーがすぐにボクシングで世界王者になるのは、ムエタイでリング慣れしていることが要因のひとつ。アマチュアの戦績はないが、キックで大きな舞台を踏んでいるのは大きい」
「井上選手はあと5年は安泰でしょう」
また、格闘技ファンが注目している井上とのドリームマッチについては、実現するとしてもまだまだ時間がかかるだろうと指摘した。
「井上選手はあと5年は安泰でしょう。いずれスーパーバンタム級に上げるでしょうから対戦があるとしたらここだと思います。ただ井上選手に挑戦するための権利を得るには時間がかかります。すべてが順調に行ったとして最短で2年。ただボクシングは何が起こるか分からない。おそらく3年はかかると思います」
井上との対戦は現実的にまだ遠い先のことであるとする金平会長は、那須川の対戦相手候補として注目している選手がいるという。大橋ジム所属の武居由樹(25)だ。武居は元K-1王者でプロデビュー以来4連続KOの破竹の勢いを見せるホープ。8月26日には東洋太平洋スーパーバンタム級王座に挑戦を予定している。
「井上選手との対戦は夢がありますが、その前に私が見てみたいのは武居選手との対戦です。武居選手は井上選手と同じ大橋ジムに所属していますし元K-1王者ということもありストーリー性がある。対戦が実現すれば大きな注目を集めると思いますので、是非とも見てみたいカードです」
キックボクシングの「神童」はプロボクシングの世界でどのようなパフォーマンスを披露し、いかなる輝きを放つのか。夢は膨らむばかりだ。