音声削除の根拠になる「公職選挙法第150条の2」とは...?
放送法の第3条では「放送番組編集の自由」を定める一方で、第4条1項では、編集にあたって「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」の4点を求めている。
一方、公職選挙法では、第150条で「録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない」とうたっており、放送局側で内容を改変したり消去したりすることは原則としてできない。ただし、第150条の2では、政党や候補者に対して次のように求めている。東京MXが音声を削除した根拠として挙げた条文だ。
「他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」
放送局の対応が訴訟に発展したケースもある。1983年の参院選の政見放送では、故・東郷健氏が身体障害者に対する差別用語を使ったことが問題化。NHKは東郷氏に無断で音声を削除して放送し、東郷氏が損害賠償を求めてNHKを提訴した。1990年の最高裁判決では、第150条の2の規定に違反する言動がそのまま放送される利益は法的に保護された利益とはいえないとして、原告の敗訴が確定している。
前出の後藤氏は16年の都知事選でも性的発言を連発し、NHKは一部の音声を削除して放送した。後藤氏は東郷氏同様にNHKを提訴したが、やはり敗訴が確定している。
高市氏は、20年の都知事選で東京MXが音声を削除したのは、こういった判例を踏まえて「自らの判断により対応されたものではないかと考えます」と指摘。行政が政見放送の内容を事前に審査して発表を禁じることは、憲法上禁じられている「検閲」にあたりかねないとして、
「東京MXの判断については、東京都知事選挙の管理執行機関である東京都選挙管理委員会も、『公職選挙法』と『放送法』を所管する総務省も、関与はしていませんでした」
と説明している。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)