元日本テレビアナウンサーで、同志社大学ハリス理化学研究所の専任研究所員(助教)を務める桝太一さんは2022年6月14日、スリーエムジャパン(東京都品川区)のイベントに登壇した。
桝さんは、「科学の伝え方」を研究・実践するとして日テレを退社している。今後どのようなことに取り組んでいくのか、意気込みを取材した。
私生活で科学の有用性を感じる人は少ない
化学素材大手・米スリーエムの日本法人は都内で記者会見を行い、科学に対する意識調査「ステート・オブ・サイエンス・インデックス(SOSI)」の結果を発表した。パネルディスカッションには桝さんに加え、同社のコーポレートR&Dオペレーション統括技術部部長の宇田川敦志さん、ジャズピアニストで数学研究者の中島さち子さんの3人が登壇した。
スリーエムはまず、日本での科学への信頼度は上昇傾向にあると発表した。宇田川部長は、「もし人々が科学に価値を見出さないと、科学分野への資金が減少し、イノベーションの機会も減ってしまう。将来起こるかもしれないパンデミックや環境問題などを解決するためには科学者が必要」だと訴える。
「科学を信頼している」と回答した人の割合は、コロナ禍以前の調査と比べ8ポイント上昇の88パーセントで、過去最高の値だという。さらに「科学が日々の生活に与える影響はかなり大きい」と回答した人の割合は75パーセントで、グローバル平均の40パーセントを大幅に上回った。
一方で、私生活で科学の有用性を感じる人は少ないのだという。「科学は日常生活における自分自身にとって非常に重要である」と回答した人は35パーセントにとどまり、グローバル平均の56パーセントを下回った。
パネルディスカッションでは、これらの内容を掘り下げた。桝さんは今回、パネリストでありながら司会者も兼ねた。自ら「キャスターの経験があったので一人二役します」と説明し、会場の笑いを誘う場面もあった。パネルディスカッションに入る際には、パネリストたちに「ご着席ください」と声をかけながら、着席した。
「日常生活が実は科学で満ち溢れている」と伝えたい
桝さんは、科学は日常生活に関係あるものだと訴える。
「日常生活が実は科学で満ち溢れていると、もっともっと上手く伝えればいいでしょうし、テレビもその役割の一つを担うべきなのかなと、個人的には思います」
J-CASTニュースは桝さんに、どんな場面で科学が役に立つと感じるのか尋ねた。
「科学はいろいろな場面にあり、いたるところに科学を感じています。僕の場合は、もともと生物が専門だったこともありまして生物系のことですかね。 ちょっと子供っぽいかもしれませんが、なんでもない公園にいったときに『この公園何もないね』っていう人と、『アオスジアゲハがいるじゃん!キアゲハいるじゃん!』とこんな珍しい虫がいるんだという人がいるなかで、私はどこに行っても純粋に楽しめるんですね。
日常生活に彩りが加わるという点で、科学の中でも生物について深堀していてよかったなと思っています」
日本で科学の関心が高まっていることについては、「日本でも科学を伝えることに関する努力が続けられており、それが徐々に表れてきた部分があるのではないかと思います」とコメント。
また、科学で困難に立ち向かうアニメ「Dr.STONE」(TOKYO MXほか)の放送で、テレビメディアも子供たちの科学への関心を高めることにわずかに貢献できたのではないかと冗談めかして話した。
目標にできる「科学者」を発信したい
桝さんは「科学の伝え方」を研究・実践するために、22年3月31日には日本テレビを退職し、同志社大学ハリス理化学研究所助教に就任した。
長年テレビで活躍してきた桝さんは、テレビを通してどのように科学の魅力を伝えていきたいと考えているのか。J-CASTニュースの問いに、桝さんは科学そのものだけではなく、科学者も伝えていきたいと意気込む。
「素晴らしい科学者がいっぱいいらっしゃいます。野球でいえば大谷翔平選手のような、目標にできる存在を広めていきたいです」
桝さん自身もキャスターと研究者という肩書を抱えながら、日本テレビのバラエティ番組「ザ!鉄腕!DASH!!」などに出演し、海洋環境について発信を続けている。「科学に取り組むキャスター」として活躍しながら、同じように科学の魅力を発信するメディアやメディア関係者が増えてほしいと切に願った。