マクロ経済の立場からどう考えたらいいのだろうか
では、マクロ経済の立場から黒田発言をどう考えたらいいのだろうか。
まず、マクロ経済を語る上で必須なものとしてGDPギャップ(総供給と総需要との差)がある。内閣府は6日、2022年1-3月期GDPギャップがマイナス3.7%、21兆円と公表した。内閣府の計算は総供給を低く見積もっており、完全雇用に相当する総供給は内閣府のものより10兆円程度高いので、真のGDPギャップは30兆円程度あると考えていい。賃金上昇には、このGDPギャップの解消が先決だ。それができて半年くらい経過してから賃金は上昇する。
黒田総裁の賃上げのストーリーは、講演でも話していた「強制貯蓄」が消費に転化して総需要を押し上げ、GDPギャップを解消するという経路だ。これは、財務省がよく使う手だ。民間需要が出てくるので、GDPギャップを放置してもよく、財政出動も不要というロジックだ。
だが、はたしてこのロジックは正しいのだろうか。まずは、その民間需要を呼び起こすために「呼び水」が必要だというのが筆者の立場だ。そのためには、先の補正(2.7兆円)では一桁足りず、30兆円規模の補正が必要だ。
黒田発言は、マクロ経済では良い論点提示だったはずだが、マスコミや国会はマクロ経済議論が出来なかったのは残念だった。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。