「無理して描くこともないということなのではないでしょうか」
まず編集部は、近年の朝ドラにおける喫煙の演出について木俣氏に聞いた。
「2010年放送の『ゲゲゲの女房』でも出版社でタバコを吸う人がいないと注目されました。2016年放送『とと姉ちゃん』の花森安治がモチーフになっている編集者・花山伊佐次(唐沢寿明さん)、2020年放送『エール』の古関裕而がモデルになっている主人公・古山裕一(窪田正孝さん)なども、モデルの人物は喫煙者でしたがまったく吸っていません。2000年代の朝ドラでは2014年放送『花子とアン』の宇田川満代(山田真歩さん)という作家が吸っていて、シーンとしてそれはとても貴重なものでした」
「ちむどんどん」は作中1973年の設定でも、新聞社でタバコを吸っている人がいないのは非現実的に感じるが、2022年に放送するにあたって受動喫煙防止法などの動きを受けているのだろうか。
「再放送の朝ドラだと80年~90年代では自立した女性がタバコを吸うシーンがありますが2018年以降、受動喫煙防止の取り組みがルール化される以前から喫煙シーンは自主規制されているように感じます。喫煙を好意的に感じない人への配慮でしょう。ただし街のセットでタバコ店はよく出てきます。どうやら完全にタバコのない世界線にはしていないようです」
2019年にはNHK大河ドラマ「いだてん」に受動喫煙シーンが頻繁に登場するとして、公益社団法人受動喫煙撲滅機構がNHKに抗議。その後同機構はNHKから「ドラマでは(編集部注:主人公の)田畑(同:政治)のキャラクターを表現する上で欠かせない要素として描いておりますが、演出上必要な範囲にとどめております」などと回答があったと公表していた。
こうした指摘が来る可能性が「ちむどんどん」の演出に影響を与えたのか。
「喫煙場面のあるドラマに厳しい目を向ける方々もいますから、無理して描くこともないということなのではないでしょうか。タバコを小道具に採り入れると手間もかかるでしょうし。『ちむどんどん』はあくまで主人公が料理人をめざす話で新聞社が主舞台ではないので、そこだけリアリティーを出すこともないという判断ではないかと想像します」
「余談ですが、タバコを吸う身振りによって演技の『間』を作ることができるので、タバコは演者の助けになる小道具とも言われていましたから、それが使えなくなることによって、俳優にとっては新たに『間』を保たせる技を発見する機会なのです。『いだてん』ではきゅうりをタバコのように指にはさんで持つというアイデアで笑わせてくれました」
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)