「マグロ漁船員」ってどんな仕事? 「大卒にも人気」報道でネット注目...経験者に聞いたその実態

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   「マグロ漁船の船員」という働き方に、ネット上で注目が集まっている。宮城県気仙沼市の漁船を取材した、「マグロ漁船員、大卒の志望者増」などと題した河北新報の記事がきっかけだ。

   しかし、マグロ漁船での仕事とは、いったいどういうものなのか。J-CASTニュース編集部では、実際に勤務した経験のある人物に、マグロ漁船の実態について話を聞いた。

  • マグロ漁船の実像やいかに!?(写真はイメージ)
    マグロ漁船の実像やいかに!?(写真はイメージ)
  • マグロ漁船の実像やいかに!?(写真はイメージ)

「そんな簡単に乗って仕事ができるものなの?」

   2022年5月21日、河北新報の記事「マグロ漁船員、大卒の志望者増 3Kイメージ変化 『奨学金返済したい』の声も」が世の人々の耳目を引いた。

   記事では、「かつてのきつい、汚い、危険の『3K』イメージが薄まりつつある」として、マグロ漁船での仕事を志望する大卒者が増えている、などと指摘。奨学金の返済などの必要から、高収入に魅力を感じる若者も少なくない、とも伝えている。

   この記事が紹介されるや、ネット上では「自分がやってみたい、挑戦してみたいと思えるのなら学歴など関係なくどんどんやっていったほうがいいかと思います」といった声が上がる一方で、

「そんな簡単に乗って仕事ができるものなの? 俗に言う首が回らなくなった最後の手段とか言われてるけど素人には無理な仕事と聞くよ?」

といった疑問の声も上がった。

   確かに、マグロ漁船をめぐっては、「借金の返済が滞った結果、意に反して乗せられた」といった「都市伝説」とも言える、誰のものとも分からないエピソードを耳にしたことがある方も多いことだろう。そこで、J-CASTニュース編集部は、話題となった記事で紹介されたように「大卒でマグロ漁船の船員として乗船経験がある」人材コンサルタントの齊藤正明氏に、マグロ漁船の実態について話を聞いた。

労働は過酷だったが、船内の雰囲気はとても良かった

   齊藤氏は2000年に北里大学水産学部を卒業後、バイオ系企業に就職し、研究所に配属された。そんな齊藤氏は2001年に「魚介類の鮮度を保持する保存剤の開発に役立つから」との上司からの業務命令を受け、マグロ漁船に43日間にわたって乗船。マグロ漁船の実態を目の当たりにしたというが、そこで見たのは、流布している「都市伝説」とは全く違うマグロ漁船の実像だったという。

「私がマグロ漁船に乗ったのは2001年6月下旬から8月上旬で、大分県に船籍があるマグロ漁船だったのですが、いざ、乗ってみると、やはり、労働環境は過酷でした。しかし、その一方で、9人乗りの船内の雰囲気は大変良く、全員が協力して日々の業務を行っていました」

   次に、1日の仕事の流れやその内容について聞いた。

「仕事は朝6時から開始。私が乗船したのは、はえ縄漁の船でしたので、漁場につくと、まず、縄を漁場に垂らします。その長さは100kmでしたので、長さに例えると、東京から富士山のあたりまでの長さとなります。それが終わるのは正午です。

そこから3時間はマグロが餌にかかるのを待つ時間であり、同時に昼寝の時間です。そして、15時から引き上げの作業は平均的には12時間後まで続き、終了は翌日の3時。そして、次の日の仕事は3時間後の朝6時からです。私が乗った船をはじめ、遠洋マグロ漁船では、基本的にこの行程を20日連続で繰り返しますが、場合によっては、必ず連続で行われない場合もあります」
「なお、私が乗ったマグロ漁船は漁場が赤道付近でしたので、日本を出て漁場まで移動し、また戻ってくるまで計43日乗船しました。内訳は漁場まで出漁するのにに約10日、漁場での漁に約20日、帰港に約10日というものです。なお、漁場にいる間ですが、よりマグロがいると思われる場所へ移動する日は完全な休日となります。一方、行き帰りの移動の際は完全な休日というわけではなく、船内では釣り針を磨くといった作業が行われます」

「最後の手段」としての乗船はあった?

   さらに、齊藤氏は自らが乗ったマグロ漁船の自身以外の8人について、その学歴について教えてくれた。

「大卒の方は恐らく、いなかったです。8人のうち7人は中卒で、残り1名については学歴については聞きませんでした」

   これら仕事の話が一段落すると、齊藤氏は「借金の返済が滞った結果、意に反して乗せられた」といったような「都市伝説」はマグロ漁船の実態としては一般的ではないとしつつ、その発生原因を以下のように推測した。

「1970年代までは、『結果的に』最後の手段でマグロ漁船の乗組員として働いていたという方が、わずからながらいたかもしれないと思います。リアルタイムでの話は知りませんが、乗船の際に漁師さんからそのような話はお聞きしました」

   さらに齊藤氏は、自分が乗ったのとは別のマグロ漁船員から聞いた話だとして、次のようにも説明した。

「なぜ、『最後の手段』として乗船があり得たかというと、1970年代まではマグロが毎年大量に漁獲できており、船員として働くと月給で100万円前後が稼げたという事実があったということ、また、マグロ漁船の見習いの船員として働く場合は無資格でも働けるので、借金があって急ぎで金が欲しいと言う場合は、手っ取り早く金を稼ぐための最終手段として認知されていたということのようです」
「その結果、『最後の手段』として働いていた人がいたというだけですので、ほとんどの船員は、金に困っていたと言った事情はなく、普段からマグロ漁船の船員として働いていた方ばかりというのが実情だったはずです」

「見習い船員は1回の乗船で約30万円の報酬」

   ちなみに、齊藤氏が乗った2001年当時の報酬はどれくらいだったのだろうか。

「私が乗った2001年での赤道付近の遠洋マグロ漁業においては、見習い船員は1回の乗船で約30万円の報酬、船長だとその1.8倍から2倍が相場でした。なお、乗船中の食事代や光熱水費は請求されませんでした。ちなみに、私は上司からの命令で会社の業務として乗船したので、マグロ漁業の船員としての報酬はいただいておりません」

   最後に、大卒の人間にとって、マグロ漁船はお勧めの就職先と言えるのか聞いてみた。

「お勧めうんぬんの話をするのであれば、学歴は関係ないですね。私個人としては、いまだに憧れている職業です」

(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

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