ニュースや新聞などで語られないものを知りたい
――本書の第2章で、「テレビ東京系列で放送された番組『やりすぎ都市伝説』がきっかけで(中略)『本当か嘘かわからない話』をもって都市伝説と表現するようになった」「怪談からあやしい話へ。とくに視聴者に受けたのが陰謀論だ」と書かれていますが、なぜ「都市伝説」の意味が広がっていったのでしょうか。
三上:都市伝説というのは元々、「口裂け女」や「てけてけ」といった怪談的な怖さがあると同時に、どこの地域にも当てはまるんです。噂話になりやすく、ちょっと怖いっていう要素があって広まっていくのが都市伝説なんです。1980年代になると、「学校の怪談」が流行るんですよ。例えば「トイレの花子さん」は、実際に起こった殺人事件が元になっているのですが、その一方で、トイレに幽霊が出るという昔から有名な怪談でもある。
その後、元々の都市伝説が持っていた「怖い!」っていう感覚が、単なる心霊的な怖さだけじゃなくて、社会的な事件や国際的なものに対する怖さに広がっていくんです。人類滅亡や世界征服といった予言になると、陰謀論と結びついちゃう。こうなると、芸人さんが例えば秘密結社フリーメーソンが世界征服を狙っていると言うと、視聴者は「怖い!」と思う。どこか「怖い!」っていう反応が、都市伝説が意味するところを拡張している原因だと思います。
――最近では度々新聞などでも「陰謀論」という言葉を見かけます。これらの「陰謀論」にはどのような特徴があるのでしょうか。
三上:今の「陰謀論」というのは、伝統的な陰謀論とは違うんですね。元々「陰謀」っていうのは「陰謀史観」なんですよね。史観というのは歴史の見方のことです。歴史的な事件や流れの背後には黒幕や仕掛けている人物がいて、彼らは個人個人の利益じゃなくて組織的に明確なビジョンを持って動いている。こういった歴史に対する見方は、古代から連綿とあるんです。これら陰謀史観は「秘密結社フリーメーソン」や「イルミナティ」などの単語を置き換えても成り立ちます。言葉が違うだけで、言ってることは基本的に同じなんですよ。
この陰謀史観が、一転して今日語られる「陰謀論」になった一番の要因は、ドナルド・トランプ前大統領の登場です。そしてアメリカ発のQアノン。ここで出てきたのが「ディープステート」(闇の政府)という漠然とした寡頭権力集団みたいな形のものです。2016年アメリカ大統領選挙で、保守派陣営が「ディープステート」といった論を展開する。これには批判もあるし実態も定かではないが、とにかくネットやフェイクニュースの環境に乗っかったんです。本当かどうか分からなくても、政治的に有効だということが分かって、Qアノンやディープステートを信じているか信じていないかにかかわらず、広がるし、語られる。ニュースや新聞などでは語られないものがあってそれを知りたい。そうなってくると、ある種のリアル感として「陰謀論」がドンドン拡散していく。これはこれまでの陰謀論とは違うんですよ。特に政治的な闘争に使われていると、実害を伴うので非常に危険です。
それと、たまに「陰謀論は全部嘘だ」といった言い方がありますけど、これも危険なんですよ。
――どういうことでしょうか。
三上:陰謀論を全部否定することって出来ないんですよ。これは論理的に当たり前で、「ない」ことを証明するのは悪魔の証明だから。完全否定できないのに否定してしまう人が、どこかインチキに見えてしまう。「陰謀論」に対して正論を吐けば吐くほど、嘘っぽく聞こえてくるんですよ。誰かがそう言わなきゃいけないんだけど、怪しいものの扱いって非常に難しいんですよね。『オカルト編集王』の中でも書きましたけど、「100%正しい」「100%信じる」っていうのは非常に危険だし、この世にそんなものはない。「99%正しい」と思っても、1%だけは否定しなくてもいいから「分からない」という部分を残しておく余裕が大事なんです。「99%怪しい世界はない」と思っていても、一言置いてからの論の展開が必要なんですよね。