自らの家族をテーマにしたドキュメンタリー映画で知られるヤン・ヨンヒ監督(57)が2022年5月26日、最新作「スープとイデオロギー」(6月11日公開)について東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見した、
ヤン氏は在日コリアン2世で、両親は熱心な在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の熱心な活動家だった。3人の兄は「帰国事業」で日本から北朝鮮に送られた。ヤン氏は、こういった経緯を「ディア・ピョンヤン」(05年)、「愛しきソナ」(11年)などを通じて発表してきた。今作では、1948年に韓国・済州島(チェジュド)で起きた虐殺事件「4・3事件」の現場に居合わせた母親を中心に描かれる。両親のルーツは済州島だが、なぜあえて「北」を選び続けたのか。今作で「4・3事件」を取り上げたことで、ヤン氏は「やっと『ディア・ピョンヤン』を終われたという感じが、今、とてもしています」などと感慨深げに話した。
「4・3事件」は「北を選んだ理由というよりは、韓国を否定した理由」
父親は09年に大阪で死去。遺骨は母親の手で平壌に運ばれ、埋葬された。この頃から、「4・3事件」について少しずつ語るようになったという。「4・3事件」は、1948年から54年まで、武装蜂起の鎮圧を名目に軍や警察が住民2万5000~3万人を殺害したとされる事件で、長い間、韓国社会ではタブー視されてきた。18年には、70年ぶりに現地を訪れて追悼式に参列。アルツハイマー病で記憶が薄れる中、葛藤を抱えながら過去に向き合う姿が描かれる。
エグゼクティブ・プロデューサーで、夫の荒井カオルさんも登場人物のひとりだ。母親、ヤン氏、荒井さんという国籍もイデオロギーも違う3人が、参鶏湯のスープを味わう光景も象徴的だ。
葛藤の中撮影を続けた理由を問われたヤン氏は、「4・3事件」が両親にとって「北を選んだ理由というよりは、韓国を否定した理由」だったとして、
「そこまで描かないと、『ディア・ピョンヤン』を終わったことにならないな、と思ったんですね。本当、宿題というか、やっと『ディア・ピョンヤン』を終われたという感じが、今、とてもしています」
と説明した。