「どうしてきっぷを買わないといけないの?」と子どもが母親に問うJR九州の広告が2022年5月上旬、沿線外のネットユーザーからも注目を集めていた。「ルール、守っていますか?」と見る人に問う広告の狙いは何なのか。
「お客様に正しい運賃をお支払いいただく環境づくりに取り組みたい」
子どもが母親に「どうしてきっぷを買わないといけないの?」と問いかけ、母親が「ものを買う時と一緒。それが社会のルールなのよ」と答えている。さらに「ルール、守っていますか? ルール、教えていますか?」と見る人へメッセージも掲げられている。
J-CASTニュースの13日の取材に応じた同社によれば、この広告は2022年2月頃からJR九州の駅や車内に掲示されている。広告の企画意図については
「以前から不正乗車対策の一環としてポスターの掲出等の啓蒙活動を行っておりましたが、今回、福岡県警など警察のご理解とご協力を頂き新たなデザインのポスターを作成しました。引き続き、お客様に正しい運賃をお支払いいただく環境づくりに取り組みたいと思います」
と答えている。
鉄道路線によっては無人化が進み、券売機とICカードリーダーがあるだけの無人駅がローカル線区から都市近郊でも見られる。JR九州でも駅の無人化が進んでおり、22年4月1日より管内の21駅が新たに無人化された。
しかし駅の無人化は不正乗車の温床にもなりかねず、JR九州の香椎線では乗客の行動解析の実証実験が始まっている。福岡県の香椎線内の4駅では乗客がICカードを使わず紙のきっぷか磁気定期券を利用する場合、改札口のカメラ付きモニターに切符などを映してもらうことで駅の利用状況を把握している。22年3月1日から8月31日まで行われる予定だ。JR九州はこの実証実験の狙いを「正しく鉄道をご利用いただける環境を整えることで、お客さまに安心してご利用いただける駅づくりを目指します」と公式発表の中で説明している。
「取り締まり強化と同時に啓発も、ということかもしれません」
鉄道ライターの枝久保達也さんは取材に対し「当該広告は特定の路線や乗客の行為を意図したものではないにせよ、広告掲出時期は年度替わりとも重なるので、新年度から新しく鉄道を使う層に正しい乗り方を求めたものと思われます」と広告の背景を推測する。
「ICカードが導入された駅でも不正乗車が常態化していて、(香椎線での実験のように)具体的な動きもあるようなので、取り締まりを強化するのと同時に啓発もしていこうということなのかもしれません」とも話す。
JR九州のみならずコスト削減のための駅の無人化は全国の鉄道各社で進む。不正乗車対策としては駅や車内での抜き打ち改札も行われているが、これには人件費がかかるため、検札などで徴収できる運賃が対策に見合うかという経営上の問題が発生するという。
「不正乗車による逸失利益と、対策のどちらの方が経営にマイナスかという話で、大抵は大掛かりな対策を打つ方がお金がかかるという結論になりがちです。ただ、これは正当な利用者に不満を抱かせ、モラルハザードを招きます」(枝久保さん)
香椎線での実証実験のような新しいシステムで不正乗車防止に取り組むとともに、親子の会話で伝えるマナー広告で利用者のモラルに訴えて、正しく鉄道を利用してもらいたいという狙いがあるのかもしれない。
(J-CASTニュース編集部 大宮 高史)