韓国で2022年5月10日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が就任した。朴槿恵(パク・クネ)政権以来、5年ぶりの保守政権への交代となる。
就任演説で日韓関係への言及はなかったものの、尹氏は大統領選の段階で「古い反日扇動だけでは国際社会の巨大な変化に立ち向かうことができない」などと、進歩(革新)系の文在寅(ムン・ジェイン)前政権の対日政策を批判。就任前には、慰安婦問題を「最終的かつ不可逆的に解決」するとした15年の慰安婦合意を主導した人物を「政策協議代表団」メンバーとして日本に派遣した。現時点では対日関係改善に意欲を見せるが、尹氏が当選した大統領選は、文氏の後継候補と得票率で0.73ポイントしか差がつかない大接戦。政権運営は難航が予想され、それでも実効的な政策に着手できるか、本気度が問われそうだ。
朴槿恵政権で結ばれ、文在寅政権で事実上反故にされた慰安婦合意
就任式には、岸田文雄首相の特使として林芳正外相が出席。尹氏や、外相に内定している朴振(パク・チン)氏と会談し、
「韓国側からは、日韓関係のこれ以上の悪化を放置してはならない、という強い意欲が示された」(林氏)
という。
その「強い意欲」の表れだとみられるのが、尹氏が大統領就任に先立つ22年4月、日本に派遣した「政策協議代表団」だ。そのメンバーに外務省北東アジア局長を務めた李相徳(イ・サンドク)氏が含まれていたことが韓国内で波紋を広げた。
日韓両政府は慰安婦合意に先立ち、14年4月から15年12月にかけて計12回にわたって局長級協議を実施。その際の韓国側首席代表が李氏だった。合意が結ばれたのは朴政権で、岸田氏も外相として合意に関わった。
17年に発足した文政権は、元慰安婦の女性の意見が十分に反映されていないとして、合意では問題は解決できないとの立場を繰り返し表明。合意は、日本政府が元慰安婦の女性を支援する財団設立のために約10億円を拠出することを前提に、慰安婦問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」内容だったが、財団は19年に解散。事実上合意は反故にされたが、韓国側から明示的に破棄や再交渉を要求することはなかった。