大手私鉄の近畿日本鉄道(近鉄)は2022年4月15日、鉄道線全線の運賃改定の申請を国土交通省へ行った。23年4月1日を改定予定日とする。
関西大手私鉄としては2020年代で初の運賃値上げとなる近鉄。2府3県にまたがる広範な路線網ゆえ地域への影響も少なくない。
新幹線との料金差は縮小
近鉄の発表によれば、運賃の改定率は平均17.0%で、定期運賃も通勤定期が18.3%、通学定期が9.2%値上げされる。初乗り運賃は160円から180円となり、大阪難波~名古屋間の普通運賃も2410円から2860円に値上げされる。
近鉄は新型コロナの影響で乗客の減少が定着し経営努力で収入源を補うことは困難であり、また今後の設備投資として約860億円規模の投資を予定しており「運賃改定により、将来にわたり公共交通としての使命を果たしていく所存です」と説明している。
近鉄の鉄道収入源の核は特急列車網で、とりわけ大阪難波~名古屋間には20年3月から新型特急車両の80000系「ひのとり」を導入したばかりだ。一般特急よりグレードの高い「ひのとり」は通常の特急料金に特別車両料金を加え、大阪難波~名古屋間の運賃と料金の総額はレギュラー車両で現行4540円、プレミアム車両で5240円だった。運賃改定後はレギュラー車両でも4990円になる。
近鉄と競合する東海道新幹線は新大阪~名古屋間の自由席利用で5940円、「こだま」で事前指定の上利用できるツアー切符の「ぷらっとこだま」なら4600円である。所要時間は「こだま」でも約1時間に対し、近鉄の「ひのとり」では約2時間と新幹線が圧倒している。近鉄側の苦戦も予想されるが、鉄道ライターの新田浩之さんはこう話す。
「所要時間では新幹線が優りますが、近鉄が発着する難波エリアや大阪南部から新大阪駅まで出る時間を考えると近鉄でいい、というユーザーがいますので、まだ近鉄も競争力を保つと思います。『ひのとり』は車内サービスが充実していますし、他にも大阪・京都から奈良に向かう観光特急の『あをによし』などで需要を喚起していくのが近鉄の戦略です」
「ひのとり」には1列3席のゆったりしたプレミアムシートや、コーヒーや軽食を購入できるカフェスペースがある。普通運賃は上がっても沿線のニーズをつかむことはできそうだ。
14年間置き換えがなかった一般車に新形式
とはいえ、新型コロナ感染拡大以降、近鉄沿線でも観光客は激減し、「上げざるを得ない状況です」(新田さん)という中で、普通運賃の値上げは通勤通学客の懐には打撃だ。
近鉄には観光や特急の需要回復と並行する課題がある。一般形車両の老朽化が進んでおり、昭和40年代に製造された車両は約450両、一般車総数1400両の3分の1近くに上る(近鉄プレスリリースより)。
「ひのとり」「しまかぜ」など看板列車が就役して特急型車両の置き換えが進んだ反面、一般形車両は2008年を最後に新車の導入がなかった。運賃改定のプレスリリースでは老朽車両の置き換えにも言及し、2023年度から25年度にかけて約180億円の投資を行う予定だ。
「特急ばかり置き換えられて一般車はそのまま、なんでその上運賃が上がるんだ...という気持ちも地元にはあったかもしれませんが、既存車両の更新も進んでいますし、新形式の導入も実現します。コロナで余裕のない状況ですが、車齢60年近くの古い車両の置き換えも喫緊の課題でした」(新田さん)
近鉄はもともと関西私鉄の中でも運賃水準は高く、ローカル線区も抱えるため経営事情は順風満帆ではなかった。とはいえ、久々に普通列車でも新車が投入される。「2025年の大阪・関西万博まで辛抱が続くでしょう」(新田さん)との先行きだが、特急・普通ともにサービス向上の布石も打たれている。
(J-CASTニュース編集部 大宮高史)