岸田文雄首相が2021年秋の自民党総裁選以来強調してきた「聞く力」の行方が怪しくなってきた。岸田氏が首相官邸の会見室で記者会見を開く場合、多くは1時間程度時間を取り、「時間切れ」で指名されなかった記者についても、メールで質問を受け付けてきた。
ところが、22年4月26日に開かれた記者会見は40分程度で終了。メールによる質問も受け付けなかった。
「短縮会見」直後の日程を比べると...
岸田氏が首相官邸の会見室で記者会見を開くのは今回で10回目。官邸ウェブサイトの動画の長さでカウントすると、その大半が1時間程度かけて行われている(21年11月10日は58分13秒)。例外は3回で、2月25日の26分10秒、4月8日の36分04秒、そして4月26日の41分52秒だ。その中でも特に4月26日は異質だ。
2月25日は、ロシアのウクライナ侵攻を非難する内容の会見だ。通常、首相会見は夕方に行われるが、緊迫した事態を受けて急きょ開催が決まり、朝8時20分という異例のタイミングでスタート。岸田氏は9時から始まる参院予算委に出席する必要があり、記者会見に使える時間は限られた。
4月8日の会見は、ロシアへの追加制裁に関する内容。直後には、フィリピンのロクシン外相、ロレンザーナ国防相による表敬訪問が控えていた。
4月26日の会見は、原油価格高騰にともなう経済対策に関する内容だった。各社の首相動静によると、会見の次の日程は、東京・芝公園の東京プリンスホテルで「茂木派のパーティーに出席し、あいさつ」。その後官邸に戻り、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談に臨んでいる。
指名されなかった記者が「メール質問」できる制度も危うい
これまでは「時間切れ」で指名されなかった場合でも、事務方にメールを送って文書で回答を得ることができた。この制度の運用も変化しつつある。この制度は、安倍政権下の20年に運用が始まり、その後の菅、岸田両政権でも継続されてきた。22年4月8日の会見では、会見を打ち切る際に司会役の内閣報道官が
「大変恐縮ですが、現在挙手いただいている方につきましては、後ほど1問、担当宛てにメールでお送りください。後日、書面にて回答させていただきます」
と発言していた。だが、4月26日は単に「それでは以上をもちまして、本日の記者会見を終了させていただきます。ご協力ありがとうございました」。文書回答に関するアナウンスはなかった。メールによる質問を申し込んだ社もあったが、官邸側は断った。
松野博一官房長官の4月27日の記者会見によると、4社から申し込みがあった。そのうちの1社が北海道新聞で、「今後、書面質問は受け付けないということなのか」という道新記者の質問に、松野氏は
「総理会見後の書面質問を受け付けるかどうかは記者会見の状況および業務の状況等を勘案して、その都度判断をしている。書面質問を受け付ける場合には、速やかに回答するよう努めているが、業務の状況等によって回答時期が遅れることもある」
と答えた。
3月の時点で前兆はあった。道新が3月20日に配信した記事によると、3月16日の記者会見前に、この日の会見ではメール質問を受け付けない旨を、官邸報道室が道新など3社に通告。このときは「会見終了時に抗議を受け、進行役の内閣広報官が一転して認めた」という。
(J-CASTニュース編集部 工藤博司)