手足3本ない男性が自力で立ち上がる動画がYouTubeで297万回以上再生され、反響が広がった。20歳の時に事故で右手と両足を失った山田千紘さん(30)。両足義足のため、転んでしまうと人の力を借りたり、手すりなどをつかんだりしなければ、立ち上がることはできなかった。
何もつかまず、左手と両足を使って立ち上がったのは、義足を履きはじめてから初めての経験。わずか36秒の動画は、いかにして生まれたのか。「もし立ち上がれず、失敗に終わったとしても、動画は公開していました」という山田さん。動画への思いを語った。
【連載】山田千紘の「プラスを数える」~手足3本失った僕が気づいたこと~ (この連載では、身体障害の当事者である山田千紘さんが社会や日常の中で気づいたことなどを、自身の視点から述べています。)
「何もつかまずに立ってみよう」
何もつかまずに立ち上がったのは、義足を履くようになってから初めての経験でした。2月末ごろ、TikTok動画の撮影のために外出中、転んで尻もちをついてしまった時のことでした。
一緒にいた後輩が「立ち上がれるんですか?」と聞きました。僕は「自力では難しいけど、手すりとかをつかめばいける」と答えました。つかめそうな柵が近くにありました。
でも「何もつかまずに立ってみよう」と伝えて、カメラを回してもらいました。絶対にできるとは思わなかったけど、可能性がゼロとも思わなくて、いけそうな気がしたんです。僕、好奇心旺盛なので、チャレンジしてみました。
1回目は上手く体を支えられなくて、また尻餅をつきました。失敗したけど惜しかったので、やっぱりできる気がすると思って、もう1回チャレンジしました。そうしたら、立ち上がることができました。
立てた瞬間は「やっぱりできた!」と思う反面、自分でもビックリしました。「あれ...立てちゃった」みたいな。想定内と想定外が入り混じった気持ちでした。やってみるものですね。チャレンジ精神は大事です。
今まで、転んだ時は後ろで誰かに支えてもらい、起き上げていただくことがほとんどでした。1人だったら、手すりやガードレールなどをつかめば、左手の力で何とか立ち上がれます。そんな事情があるので、そもそも転ばないように日頃から気を付けています。
今回の状況が違ったのは、1人で、かつ手で物をつかまずに、地面に座っている状態から立ち上がれたことです。左手で地面を押しながら、右膝を曲げて足の裏をつき、上体を左にねじりながら起き上げる。それと同時に、左足の義足の膝を伸ばし、曲がらないようバランスを取りながら立ち上がりました。自力で立つコツをつかんだように思いました。