NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」の最終話が2022年4月8日に放送され、直後からツイッターには「カムカムが終っちゃったよ~ ロス・・ってこういう事なんだろうなと久々に感じる」といった、「カムカムロス」を訴える声が上がっている。
「○○ロス」はエンタメニュース関連において、自らが視聴しているドラマの放送が終わった際や、自らが推している芸能人が結婚した際などの喪失感を指して「○○ロス」を感じている、といった形で用いられている。ツイッターやネット掲示板に書き込まれるようになって久しく、メディアでも取り上げられることがある。2021年には俳優の星野源さんと新垣結衣さんが結婚した際、「ガッキーロス」という言葉が誕生したことは記憶に新しい。
これらエンタメ関係で使われる「ロス現象」は、いつごろからネット上にあらわれるようになったのか。過去の報道や識者の見解から紐解いてみた。
目立った2013年の「あまちゃんロス」
4月8日の放送終了後、ツイッターではドラマ終了による「ロス」を嘆く声が相次いだ。「カムカム最終週めっちゃ泣いた 全部伏線回収してくれてスッキリやけど、寂しすぎる 完全ロスなる」「カムカム終わっちゃったね ハッピーエンドで良かった~ あーぁ......カムロス」などと、最終回に満足したとしつつも寂しさを訴える声が多い。
こうした「○○ロス」はメディアでも取り上げられることが多い。いつ頃から報道に登場してきたかを調べるべく、新聞・雑誌などの記事データベース「日経テレコン」を使い、「ロス 喪失感」で検索した。「喪失感」を入れたのは、「ロサンゼルス」など他の意味で使われる「ロス」を検索結果からなるべく省くためだ。
すると、2012年ごろから「ペットロス」を含む記事が全国紙に目立ち始める。一方、今回ネット上で起きた「カムカムロス」に類するエンタメ関係では、2013年に出現した「あまちゃんロス」が目を引く。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013年度前期)の放送終了を嘆く声を表わすものとして「あまちゃんロス」「あまロス」といった言葉が使われた。
具体的な例を見てみると、同年9月28日に最終回を迎えた「あまちゃん」について、1週間後の同年10月4日に朝日新聞デジタルが「『あまちゃんロス症候群』に悩む日々 どうすればいい?」と、「あまちゃんロス症候群」の言葉を使った見出しの記事を掲載。「インターネットの世界では『あまロス』なる言葉が飛び交っています」とネット上で起きた現象として紹介した。
「あまちゃん」については最終回翌日となる同年9月29日の時点でも、毎日新聞朝刊が「NHK連続テレビ小説:『あまちゃん』 あぁ、終わっちゃった...『あまロス』広がる 『また見たい』DVD予約10倍」という記事を掲載。同様にネットの現象をもとに「あまロス」を伝えていた。
同年10月1日の産経新聞東京朝刊「宮藤官九郎さん『あまちゃん』への思い 自分の中で『終わっていない』」や、同月6日の読売新聞東京朝刊「[放送塔から]『あまちゃん』終了に喪失感」の記事でも、本文中に「あまちゃんロス症候群」の言葉がある。全国紙が軒並み「あまちゃんロス」を扱っていたことが分かる。
「2013年はスマホの普及率が国内で50%を超えた年」
ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、J-CASTニュースの取材に対し、ネット上で「○○ロス」との話題が広がるようになったのは、やはり「あまちゃん」あたりからであると指摘した上で、その理由を推測した。
「ざっとではありますが、朝ドラの『あまちゃん』あたりと言えば良いでしょうか。具体的には2013年あたりから、ネット上での『ロス現象』が見られるようになったと思います。というのも、2013年はスマホの普及率が国内で50%を超えた年であり、一言で言ってしまうと、『パソコンの前に常駐していなくても常時ツイッターにアクセスできる』という環境が整った年と見ることが出来るからです」
総務省のウェブサイトを見ると、スマホ普及率は2012年に49.5%だったのに対し、2013年には62.6%となっており、確かに50%を超えたことが分かる。井上氏は続ける。
「このため、『人気ドラマの感想を気軽にネット上にアップできる』という状況になった結果、人気ドラマが終了した際には放送終了を嘆く大量のツイートが発生し、『ロス現象』が発生するようになったのではないでしょうか。なお、2015年には俳優の福山雅治さんが結婚したことによる『福山ロス』が発生し、以降、人気ドラマの終了時以外にも『ロス』が発生することが目立つようになりました」
また、井上氏は以下のようにも指摘した。
「基本的には2ちゃんねるの『祭り』が形を変えてツイッターに進出したと言えると思います。また、ドラマがきっかけで起きた『ロス現象』に関しては、『ああ、日常に戻るんだなあ』といった虚脱感が起きているわけですが、自分が推している作品に没入していたものの、それが終わるというのは現実に戻るということ。つまり、ドラマの放送自体が、あたかも実際の祭りのようになっていると言えるかもしれません」
(J-CASTニュース編集部 坂下朋永)