近所の話題から建築の世界へ
――そしてお酒がアクセントになって、矩子と近所の人たちの人間模様も描かれます。
鬼ノ:「とにかくわかりやすく」が編集部と一緒に意識していたことでした。建築一辺倒で話を進めてしまってはさすがに読者もついていきづらいかな、と。何を絡めようかな、と思ってお酒のシーンも描いています。
矩子を描いたのも建築の世界は今も男性社会ですし、男性たちが小難しい事情を解説していく...というイメージがあるかもしれませんが、それよりは女性を主人公にして描いてみたらどうなるんだろうかな?と思って。建築の世界に普通の人達がふらっと足を踏み入れる、その入り口としても矩子の立ち飲み屋があるのかな、と思います。
他にも街の建築のお知らせ看板や、マンション管理組合のトラブルといった身近なところから建築の細かなデザイン・法規の話にストーリーが進んでいきます。普段建築に縁のない読者からも「わかりやすい!」って言っていただけているのも、こうやって「わかりやすさ」をストーリーに落としこんできたおかげかと思います。亀戸の実在の街を舞台にしているので、そういった身近な話題から感じる「リアルさ」から建築の世界に入ってもらえたらと。
――鬼ノさんの仕事場も亀戸にありますね。この街の特徴はどんなところにあるでしょうか?
鬼ノ:僕が亀戸に来たのは18年くらい前でしたが、隣駅の錦糸町ほど賑やかでなく適度に静かで、そして職・住を一緒の場所にしている人が多いんです。ですから僕が建築関係のお仕事をさせてもらう時も、プライベートでも付き合いがある人とすることが多くて。
飲み屋も多くて気さくな街ですが、そういう方々が多いので真面目に仕事をしないと、と引き締まりますね。読者目線のために居酒屋の方にネームを見てもらったりもしています。