日本在住のウクライナ人兄弟ユーチューバー・SAWAYAN(サワヤン)は2022年3月31日、東京・丸の内の日本外国特派員協会で記者会見を行い、ロシアによる軍事侵攻を受けている母国にいる家族への思いを語った。
「『やっぱり始まった』――その瞬間、僕の頭の中は真っ白になった」
「サワヤン」は、兄のサワさんと弟のヤンさんによるウクライナ人兄弟ユーチューバー。31日時点で、運営するYouTubeチャンネル「SAWAYAN GAMES」の登録者数126万人、「SAWAYAN CHANNEL」は同96.3万人となっている。
2人が登壇すると、まずヤンさんが、次のように語り始めた。
「『やっぱり始まった』――その瞬間、僕の頭の中は真っ白になった。2022年2月22日、キエフにいる父からその一言だけが書かれたメールが届いた。それは、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻開始を意味するものだった」
2人の日常は、この日を境に激変した。ヤンさんは次のように説明する。約2か月前、仕事の都合でキエフに戻っていた父から連絡があった。ヤンさんが電話をかけると、今まで感じたことのない緊張感を持った父の声が聞こえてきた。絶望に襲われたヤンさんは、父の「とりあえずは大丈夫だ」という言葉にわずかな安心感を覚えたという。父と毎日連絡を取り合う中で、日に日に悪化していく現地の状況を伝えられた。
ある日、父から電話で戦争に行くことを告げられた。ヤンさんは止めなかった。止めても父は絶対に戦地に向かうと理解していたためだ。数日後、父からは次のような連絡があった。
「お前たちが息子で本当に良かった、この人生に後悔はない」
写真に写る父は、迷彩服を着て銃を構えていた。ヤンさんは、父がキエフに帰る前日に二人で酒を飲み交わしたことを思い出し、「あれが最後になるかもしれない」と一瞬でも考えてしまった自分にいら立ったという。父には「絶対に勝てる」と伝えた。
ウクライナ人としての誇り
サワヤン兄弟は子供のころから、父に「ウクライナ人であることを誇りに思え」と言い聞かされてきたという。4歳で来日したサワさんは、言葉も通じず、慣れない環境に苦しむ中で、この言葉を支えにしてきた。日本で生まれ育ったヤンさんも、言葉の意味を完全には理解できていなかったものの、壁に当たった時に自らを鼓舞する言葉にしていた。
父から戦地に向かうと伝えられた時、ヤンさんはこの言葉の意味をようやく理解できたという。
「どんな困難にぶつかっても、国を守るため、家族を守るために戦う。これは、ウクライナ人として生まれた瞬間から体内にある本能なのだと」
父が戦地に赴き、居ても立っても居られなくなったサワヤン兄弟は、自らも義勇兵となることを志願した。そのことを動画でも伝えると、大きな反響が寄せられた。「戦争には絶対行かない方がいい」「戦争に行く決意をしたのは勇敢だ」「動画で情報を発信し続けた方が貢献できる」――こうしたコメントについて、ヤンさんは「全ての意見に賛同できた」と振り返る。
父からも「お前たちが本当に誇らしい」と連絡があった。しかし「キエフよりも東京で再会したい」と告げられた。サワヤン兄弟は複雑な気持ちを抱えながら、戦争を止めるために自分たちができることを考えた。サワさんは、ゲーム実況を通じて戦争のことを伝え、募金活動やチャリティイベントに取り組んだ。ゲームを通して戦争について伝えることには迷いがあったが、なじみのあるコンテンツだからこそ、より多くの人に思いを届けられると考えたという。
誹謗中傷は絶えず、批判の声もあった。それでもサワさんは発信を続け、視聴者からは「子供たちが平和について考えるようになった」「社会情勢を考えるきっかけをくれてありがとう」といった言葉が寄せられたという。
ヤンさんは「現実から目を背けるのは簡単だ。問題と向き会うか、傍観者になるのか、決めるのは自分自身である」として、これ以上の犠牲を生まないために、世界中の人たちと平和への第一歩を踏み出したいと訴えた。
「1日でも早く日常が戻るよう、1日でも早く父親と再会できるよう、平和を願い、祈りを捧げる」
父への感謝
父への思いを語ったサワヤン兄弟に、J-CASTニュースは、父のどんな点を尊敬しているのか尋ねた。サワさんは、父の行動力や勇気を尊敬していると語る。
父はウクライナ在住時から日本が大好きで、いつか日本で仕事をしたいという夢を持っていたという。その夢をかなえるため、父はまず1人で来日した。
「言葉もろくに喋れず、現地の友人も全くいない国に、単身赴任してきて、そこで仕事を見つけて家族を養うとするその覚悟、その行動力。やはり勇気ある行動だと思います。
父がウクライナから家族を連れてきてくれたおかげで、僕たちはこうやってこの場に座ってスピーチできています。これは紛れもなく父の努力が実った結果です。父には感謝してもしきれないですし、やはりすごく誇りに思っています」
また記者団からは、日本政府の対応などについても尋ねられた。サワさんは満足していると語る。「他国のように日本政府からもウクライナに対し武器などを送るべきと考えているのか」という質問に対しては、次のように述べた。
「日本は世界的に見てもトップクラスに平和な国だと思います。その国が今起こしているアクションは真っ当なものだと思います。金銭的支援や、防弾チョッキ、ガスマスクなどの支援の話も出ております。武器を送るのは、日本が担う役割ではないと思います。
他の国々に問題意識を待たせ、アジアの中でリーダーシップを発揮して平和を訴えることが、現状、日本のやるべきことだと思っています。『もっとできることもある』という声もあるかと思いますが、僕の中では本当にありがたいことだと考えていますし、ウクライナの力になっていると思います」
最後に会見の司会者から、サワヤン兄弟の知りうる情報の中で、停戦の可能性はあるのか尋ねられた。サワさんは「終わってほしい気持ちはあるが、緊張は抜けない」と語る。
「戦争が始まる前の意識を思い出してみてください。仮に停戦したとしても同じような感覚で戻れるでしょうか?すでに長い年月か必要となってしまっています。
なので、今できることを明日のために全力でやっていくしかないと思います」
(J-CASTニュース編集部 瀧川響子)